遠雷 (海朋)



「小坂田!」


「離して」


「小坂田、落ち着けって」


「嫌、見ないで!」


海堂は黙らせるように、口付けた。


「ん、・・、ん。あ」


感情を煽られ舌を絡ませる。


「は、あ・・」


また空が光った。

僅かな間合いでガラガラガラっと大きく響く。

だが今度は、ふたりのキスは離れなかった。

息が切れて、ようよう名残惜しげに離れる。

海堂はぎゅっと朋香を抱きしめた。


「も、う。戻れねえぞ・・・」


「ぅん」


そっと抱擁を解くと、雨の中、ふたりは手を繋いで歩き出した。






朋香の言うとおり、小坂田の家はひっそりとしていた。

俄雨はまだ止まず、家の中は篭った熱気と締切った湿気に満ちていた。

海堂は一応「おじゃまします」と声をかけた。

ふたりはまだ手を繋いでいた。

離れがたいのだ。

その反面、これでよかったのだろうかと、そういう思いもまだふたりにはあった。

しかしこのまま玄関でふたり突っ立っているわけにもいかず、朋香は「タ、タオル持ってくるね」と言った。

するりと手が離れる。

切ない喪失に、ふたりから吐息が洩れた。

−−今すぐ欲しい。

海堂の目がそう言っている。逸らせない。

だがあと少しだけ・・・・。


「タオル、」


それだけ言うと、朋香はそそくさと家に上がった。







電気も付けない薄暗い朋香の部屋に、やさしくなった雨音が落ちている。

海堂は、雷もさっき光ってから遠くなったな、と朋香を待ちながら、そんなことを思っていた。

強引に風呂場に連れて行かれ、シャワーを浴びせられた。

出ると、超特急でアイロンをかけたのであろう、微妙な湿気の服がそこにあった。

そうして朋香に案内されて。

彼女の部屋にいた。

一応朋香は着替えていた。

しかし『これからのこと』を考えると、自分もシャワーぐらいは浴びたい。

ここに彼を待たせるのも、なんとなく悪い気がするけれど・・・。


「せ、先輩?」


「なんだ」


「あた、あたしも浴びて、くる」


−−そのままのお前の匂いをかぎたい、


などとは口が裂けても言えるはずも無く。

こうして雨音を聞いている。

海堂は自分の手を見た。

普段はラケットを握るためにある手。

だが。

さっき手が離れた時の、あの喪失感。

あの時は、ほんの一瞬でも離れることなど思いもしていなかったのだ。

だから辛かった。

繋いでいた、彼女の小さな手。


−−離したくねぇ! いや離さねえ、


海堂はぎゅっと握った。

そこにある「彼女」を閉じ込めるように。







その時、朋香が戻ってきた。

紺色のTシャツに白っぽいスカートを穿いている。

そして、彼女のトレードマークとなっているツーテールは下りていた。

いたってシンプルなその姿だが、海堂の鼓動を早めるのには十分だった。

あまりの情けなさに、僅かに自嘲する。


「来いよ」


朋香はおずおずと近づいた。

海堂は彼女の手を取って絡ませた。


−−戻ってきた。


安堵すると、朋香を引き寄せ口付けた。

最初は、触れるように。

次いで重なるように。

そして−−−

奪うように。

一時的に落ちていた情熱が、それだけであっさりと沸騰した。

先程海堂が求めたもの。

朋香が溺れたもの。


「あぁ・・ふ」


ともに深みに嵌ってゆく。

海堂の舌は、浚うように朋香を追い詰める。

雨音とは違う、淫らな水音が響く。

それが欲を一層煽る。

手が朋香の紺色のTシャツの上から乳房に触れた。


「ん、・・・ぃ・ゃ」


その頂点が僅かにつんとしているのに、海堂は気付いた。

更に『それ』を摘む。

反射的に高い声が上がる。

朋香はブラジャーを付けていなかった。







彼女はちゃんと『解って』いるのだ。

−−いい女だ。

全く、

海堂は素直にTシャツの中に入り込んで、直接乳房を愛撫しはじめた。


「せん、ぱ・・ぃ、あ・ぁー」


胸を愛撫されながら、朋香の中に恐れ以上の欲が上がってくる。

恥ずかしいのだが、大好きな海堂先輩に触られるのはすごい嬉しい。

そしてそれ以上に気持ちいい。

両の乳房を海堂の骨ばった手で揉まれるように愛撫され、

その頂にあるものがピンと立ち始め、一層感度が上がってきた。


「小坂田」


海堂が耳元で呼んだ。快楽に酔い始めた彼女は空ろに答える。


「は・・ぃ」


「脱がすぞ」


言うなり、容易に朋香の身を起こすと、彼女に身じろぎもさせずに紺色のTシャツを剥いでしまった。

流石の朋香も羞恥のあまり手で隠そうとしたが、両手をあっさり固定されてしまう。


「セン・・ぱ、」


真っ赤になって必死に身を捩るが、それは当人だけのもので海堂には些かも意味は無い。

そんなことより。

活動的な朋香は、普段から陽に晒されている部分は、わりと健康的な肌色だった。

だが、異性に初めて晒したであろう、この普段見えない部分は、ぬけるように白かった。







「きれいだ・・・」


海堂のつぶやくような言葉に、朋香も停止した。


「雪のように白くて、・・・きれいだ・・」


「せんぱい・・・。あたし、ほんとにきれい?」


「俺が嘘を言ったことあるか?」


彼女は首を振った。

生真面目で真摯なこの男は、駆け引きなどというものとは最も縁遠い。


「うれしい。先輩、あたしうれしいよ、」


朋香は海堂の首に手を回し、引き寄せた。

海堂もそれに応え、キスの雨を降らせる。


「小坂田」


「せんぱ・・・ぃ」


海堂のキスは唇から、顎、喉へと下がり、喉の奥。または肩先へと流れた。

そこで少し歯を立てる。


「あ! う」


『喰われる』というのはこういうことなのだ。

朋香はぼんやりとそう思った。

そして『喰われたい』と願った。

海堂薫という男に。

海堂の口は朋香の白い肌に『跡』を残しながら更に下がり、尖った赤い実を齧った。

瞬間、朋香の背が反った。

今までに一番の反応だった。

声が後で来る。


「あ、はぁ・・ん。あぁー」


「いい声だな」


胸を舌で攻めながら、彼女の羞恥を煽る。


「ヤ、先輩、いじわる」


「かもな」


そう言って、また噛んだ。

体の反応は止められないが、声は抑えることが出来る。







乳房を愛撫しながら、右手をスカートの中へ這わせた。


「せんぱ、」


声を噛み締めながら形ばかりの抵抗を見せる。

しばらく腿を撫で上げていたが、すっと中心に差し入れた。


「ぁ、んーっ」


朋香の頬が一層赤く染まる。

女の子の最も大事なトコロを守る小さな布は、すでに濡れそぼっていた。

彼は下着の上から遊ぶことをせず、すぐに潜り込み、直接触れた。


「ひゃっ、あぁぁ・・・、せ、センぱっ、」


海堂の背中がぞくりときた。

自分の愛撫で、愛する女が乱れている。

自分にしか見せない痴態を見せている。


「もっと。もっと見せてくれ」


また乳首を咬む。

胸と秘所を攻められ、朋香の声が高くなる。


「あ、あんっ」


朋香はもう、何も考えられなかった。

凄く恥ずかしいのに、それ以上に凄く気持ちよくて。

体中が敏感に反応する。

海堂の空いた手は、ただ腕や腰を撫でているだけなのに、そこも感じている。

体の中心に何かが棲みついたようだ。

それが暴れて訴えている。

いや命令している。

『もっと、もっと』と。

不意に海堂から来る熱が無くなって、朋香は切ない声を上げた。


「せんぱぃぃ・・・・・」


すると頬に海堂の手の甲が優しく触れられた。


「少し待ってくれ」


とろんとした朋香のスカートとショーツを脱がせた。

へその下にチュとキスをする。


「せんぱい、はずかしいよお」







余りの恥ずかしさに顔を覆ってしまう。


「小坂田。俺を見てくれ」


海堂はTシャツを脱いだ。

彼は時々上半身裸で練習しているから、それなりに見たことはあった。

だが、今の姿は格別だった。


「あ、あ。先輩・・・」


朋香の体の奥底でぞくりとしたものが湧いた。

自分の蜜が滴るのがわかる。

そんな自分がいやらしいと思っても止められない。

次いでジーパンと下着も取る。

そのへんの中学生とは比較にならない鍛えられた体から、何ともいえない色気が立ち上って見える。

−−欲しい・・・・・


「・・先輩。好き。抱いてください」


「俺もだ、小坂田」


キスで確かめ合った後、海堂は朋香の脚を開いた。

先程からの愛撫でかなり濡れてはいるものの、朋香の花芯は、当然まだ硬い。

彼はもっと咲かせるために、『そこ』に舌を差し入れた。


「せんぱ、そんなトコっ」


反射的に海堂の頭に手をやってしまった。

だがそれは、彼のやわらかい髪で、自分が気持ちよくなってしまっただけで。

構わず海堂は舐めている。

思わず舌で唇についたのを舐めとってしまう程、蜜は甘かった。

薔薇の花びらが一枚一枚開かれるように、彼女の花も開いていった。

そして。


「ひゃっ、ああぁーっ はぅ、」


朋香が声と体で一段と高い反応を見せた。

最も快感を与える芯を嬲ったからだ。

蜜も一層溢れ、啜り切れない程だ。

海堂はそこを刺激しつつ、指を入れた。

緩んだ花芯は1本は受け入れたが、2本目はきつかった。

朋香からも、悲鳴に近い声がする。

だが、この淫らで清廉な行為に没頭しているうちに、海堂自身にも 余裕が少なくなってきていた。







クラスの野郎どもが遊びで配ったきり、何となく手帳に挟んであったゴムの封を切る。


「小坂田、」


乱れに乱れ、荒い息を上げるかわいい恋人を呼んだ。


「せん、パ、」


潤んだ瞳で見上げられた。たまらなくいとおしい。

もう限界だ−−−−−−


「入れる、ぞ」


朋香はコクンとうなずいた。


「せんぱ、」


「何だ?」


「離さないで、」


返事の代わりに額にキスを落とすと、海堂は朋香の腰を掴んだ。

そして、ぐっと突いた。


「あああ。ゃ、」


心は納得していても、体が本能的に逃げる。

それを海堂は力でねじ伏せた。


「あ、あぅっ・・・ぃひっぃ」


「、っく」


海堂にとってもかなりきつい状況だが、朋香に比べればまだ多少は余白がある。

−−壊れ、ちゃうっ、怖い・・よっ

朋香が悲鳴を上げそうになるが、辛うじてこらえている。

気の強い、自立心の強い彼女がこれほど辛そうなのだから、余程の痛みなのだろう。


「正直に、言え。辛い、か?」


「ちょっと、だけ。・・・でも・だいじょ、ぶ・・・だ、て・・先輩の だ・・も、」


あまりの愛しさに海堂は言葉を失う。

何も言わずに手を絡ませると、深くキスをした。

それを合図のように動き始める。







「あ。っひゃあぅん」


朋香は激しい痛みを感じる一方で、体の芯にある『何か』が暴れだすのを感じていた。

感じるのは、海堂のものと、その苦痛にも似た快感だけだった。


「せ、せんぱっ、・・・・あた、し、変っ」


ふたりを繋ぐ淫らな水音が一層欲を煽る。


「ぃゃ、アう。先輩、先輩!」


「薫、だ。朋香、」


快楽から逃げるように、貪るように舌を絡めあう。


「かお・・・、る。・・・・薫!」


「朋香っ」


海堂が精を放つのと朋香が絶頂を迎えたのは、どちらが先だったのだろうか。

彼は自身の体を支えきれずに、朋香の上に落ちた。

ふたりして荒い息をあげる。

海堂はぐっとふんばって、彼女を見下ろした。


「小坂田、小坂田!」


朋香はうっすらと目を開けた。


「う・・ん・・」


とりあえず意識はあるようなので、海堂はほっとした。

何か言うべきなのかもしれないが、口下手な自分にはうまく言葉に出来ない。

−−−−と、朋香が無言で擦り寄ってきた。


「小坂田・・・・・」


海堂は彼女の手を取ると、ぎゅっと握った。

朋香は笑っていた。

自分も笑っていた。

彼女の額にキスをする。

言葉は要らないんだと、海堂は知った。






いつのまにか、薄暗かった部屋に薄く陽が差していた。

だが窓を見ると、時折新しい水滴が当たっている。

まだ少し降っているようだが、それもじきに止むだろう。

遙か向こうの、夏特有の高い雲の中で、低い音だけが響いていた。

夏はまだ十分に余白を残していた。




end;





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