逢魔が時 海堂×巴



「部長、入りますよ?」


扉の外で少女の声がする。


「おう」


そう答え、扉を開けて招き入れ、後ろ手に鍵を掛ける。

カチャリという音に振り向いた、もの言いたげな唇を自らの唇で塞ぐ。

実は、こうして人目を忍んで部室で睦みあうのも初めてではない。

ただ、いつもは触れるだけの口付けと、ようやく大きくなり始めた胸を着衣越しに愛しむ。

それだけで満足していたのだ。

だが……今日は。

不意に与えられた唇にうっとりとなった少女の腕を上に上げ、ポロシャツのボタンを外して剥ぎ取る。

胸を覆っているブラジャーのホックを外し、そして……ショーツと共にアンタースコートをひき下ろし、片足を抜く。


「部長!?」


恋人の予想外の行動に戸惑った少女が、抗議の声をあげる。

その言葉を無視したまま、海堂は部室の隅のロッカーに彼女を押しつけた。

追い詰められた彼女を抱き締め、更に深く口付ける。

彼女の両脚を自分の左脚で割り、そのまま足で突き上げる。

数回突き上げた後、左足の太ももを少女の股間にあてがい、その部分に震動を与える。

直接触れてもいないただそれだけの刺激に、彼女の身体は崩れ落ちそうになった。

腕の中の身体を反転させてロッカーに手をつかせ、腰を突き出させる。

つけたままのスコートを捲り上げ、円やかな双丘を露にする。

ブラは、肩のストラップがかかっているだけで、既に本来の役目を果たしていない。

隠されるべきものを全て曝け出された少女の姿はあまりに艶惑的で、海堂の中の欲が更に膨れ上がる。

彼女の背中に覆い被さり、両の掌で乳房を愛撫し、指で、先端の色づいた部分を擽る。

堅く猛り狂った海堂自身を、双丘の割れ目に擦り付ける。






「部長……?」


少女が顔をこちらに向け、なぜこんなことをするのか、と目で訴えてくる。

そんな彼女の耳に顔を近づけ、囁く。


「…日曜日、あの1年と何してた…?」


「!……べ、別に……。ただ、買い物に、付き合っただけ……ですよ……?」


「…お前も、買い物に付き合ってもらったんだろ…? ……何、買った?」


「か、海堂部長には……秘密……」


――『海堂部長には秘密』――その言葉が、わずかに残っていた理性を打ち砕いた。




海堂は少女に全てを見せてきた。

今まで誰にも話したことのない密かな夢さえ、少女には打ち明けてきた。

過去も未来も、全てを少女に見せてきた、少女もそうだ、と今まで信じてきた。

それが……それなのに。

少女には、自分に対して隠していることがある。

それが、許せない。

他の人間にはきっと分からないだろう、この想いは。

桃城などはきっと、


「女にはなあ、男に内緒にしときたいことがあるんだよ。」


と笑い飛ばすに違いない。

しかし、海堂にはそれが許せないのだ。

それが、どんな些細なことでも。




言いたくなくても言わせるまで。

そう決意して、海堂は少女から身体を離した。

着ていたTシャツを脱ぎ捨て、鍛えられた上半身を露にする。

その右手を少女の秘部へと伸ばす。

――逢魔が時に棲む魔物が、海堂の思考を支配しようとしていた。






人差し指で花弁を掻き分け、小さな突起を探り当て、そのまま捏ねる。

左手はそのまま、まだ堅い胸を攻める。

唇は、肩から項に、そして耳へと愛撫を繰り返す、

そして、耳に辿りついた唇が彼女の耳に囁くのは、


「お前…部室でこんなことされて、感じてるのか……?」


「…『憧れの先輩』が、ここで、こんなことしてるなんて…なあ?」


「…あの1年とも、こういうことしたいんじゃねえのか? お前……」


「……あいつに、見せてやりてぇな……。お前の……この……格好」


いつもなら、決して言わないであろう言葉。


「…かいどうせんぱ…、たすけ…」


少女の声が助けを求める。

しかし彼女が救いを求めているのは、今、彼女に快楽という罰を与えている張本人だ。


「……お前が、悪い……」


苛む者の呟きは、少女の耳には届かない。




身体に与えられる愛撫と、脳裏に響く言葉。

少女の理性は溶け出す寸前だった。

しかし。

言いたくない。こんな……ことをされて。

その思いが、彼女を頑なにさせた。

目を閉じ、唇を噛み締めることで、甘い攻めで疼く体を鎮めようとする。

そのこと自体が、男の激情を更に高めるとは思いもよらず。




唇を蹂躙した後、壁に手をつかせた姿勢のままで貫く。

少女の身体が、一瞬、強張った。

いやいやと、まるで子供が駄々をこねるように頭を振る。






彼女を後ろから抱くのは、これが初めてだった。


「…顔が見えないのは、嫌、です…」


以前そう言われたことがあって、それ以来、そういう体位を試みたことはなかったのだ。

しかし今日は、右手を分身に添え、一気に征服する。

逃れようとする身体を後ろから抱きすくめる。

少女の中は熱く、絡みついてくる肉の感触に海堂は眩暈を覚えた。

そのまま突き上げたい衝動を堪え、秘肉を緩やかに掻き回す。

右手で肉芽を弄ぶ。

じゅぷ、と音がする。

彼女の蜜が溢れ出す音だ。

……感じて、いる。

その確信が、海堂の嗜虐心を更に煽った。

耳に唇をつけ、囁く


「……お前、後ろから入れられて、感じてんのか……? いやらしいぜ……」


そう言いながら、彼女の弱いところを探し出そうと、蠢く。


「!……あ、あ、あ……」


自らの歯で傷めつけられていた唇が再び開かれ、艶やかに官能の歌を歌い始めた。

彼女が一際高く詠う場所を見つけ、そこを重点的に、攻める。

少女の後頭部が海堂の胸に擦り付けられ、腰が、海堂の動きに合わせて揺らめき始める。

閉じられたままの両目から、また涙が零れ出した。

その滴を吸い、柔らかな頬を舐め、そして、紅く色づいた唇を舌で愛撫する。

その唇が、微かに動いた。

……何かを言おうとしている。

彼女の唇に耳をつけ、言葉を待った。


「かおる」


……僅かに血が滲む彼女の唇から漏れたのは、海堂の名前だった。






人一倍照れ屋の少女は、他人がいるところで、海堂をその名で呼ぶことはない。

彼女がそう恋人を呼ぶのは、二人きりになっているとき、それも、ひとつになって融けあっているときだけだ。


「……かおる……だいすき」


掠れた声で、繰り返し、繰り返し、まるでそれしか言葉を知らないもののように。

うわ言のように。

海堂の中に、先ほどまでのドロドロと粘りつくものとは違う、熱い、透明な炎のような感情が生まれた。

彼女を抱き締める腕に、力が篭もる。


「……俺もだ……俺も…お前しかいねぇ……だから……隠し事なんて、やめろ……」


最後の言葉は、哀願に近かった。

少女の、ずっと閉じられたままの瞳が、ふ、と開いた。

涙を湛えた双眸で、それでも微笑もうとする。


「かおる……5月11日って、なんの、ひ……?」


5月11日、それは…海堂の誕生日。

まさか。

俺の誕生日の。

そう言おうとした海堂の唇を、少女の人差し指が制止する。


「…だから、ないしょ……。……これぐらいは……いいでしょ?」




愛しい。

他の全ての感情を押し流す、強い想い。


「……すまねぇ」


彼女の肩に顔を埋め、呟く。

その頬に、少女の手が触れた。


「……かおる」


幽かな、微笑。


「……ね、いっしょに……」


その言葉に胸の奥を掴まれたような感覚を覚え、海堂はそのまま突き上げようとした。

だが、少女が言った次の一言で、その動きは止まった。


「…かお、みたい…これじゃ…なんだか、ひとり、みたい……」






『ひとりみたい』


その言葉に、海堂は意志の限りを振り絞って少女から離れた。

側にあったパイプ椅子に腰掛け、愛しい人を自分の体の上へと誘う。


「……来い」


少女の腕が海堂の背中に回る。

両の乳房が海堂の胸に押し付けられ、腰がゆっくりと海堂の怒張したものの上に落ちてくる。

……熱く、蕩けるようなその感触に、そのまま、熔けてしまいそうな錯覚すら覚える。

そして、少女の歓喜と苦痛の入り混じった表情が、海堂を更に昂ぶらせた。

自分のものを全部受け入れ、切なげに吐息を漏らす唇に、触れるだけの口付けを繰り返す。

今日初めての、優しい、恋人同士のキス。

唇を触れ合わせたまま、海堂は動き始めた。

先刻までのものとは違う、愛するものを真に愛するための動き。

しかし、海堂を支配していた狂気の欠片が、その動きをいつもとは少しだけ変えていた。

いつもは。

少女が少しでも嫌がる素振りを見せたら、自分がどんなにその先を見たいと望んでいても、

そこから先へと進むことはなかった。

大切な、何よりも大切な人だから、傷つけたくなかったのだ。

だが今日は。

少女の言葉より、少女の身体に忠実に。

反応があるところは、いくら少女が止めてと懇願しても進んでいく。

少女が、より、悦びを享受できるように。

少女を、より自分に繋ぎ止めるために。

……少女が、決して自分から離れていかないように。

緩やかに狂っていく彼女の姿を見上げながら、もっともっと、自分に溺れてほしいと願いながら、

海堂は彼女の奥を突き上げ、捏ねた。

さっき見つけた彼女の弱点を、再び刺激する。

浅く、また、深く繰り返されるその律動に、少女の理性は完全に崩れ去った。

海堂の頬を両手で包み、自分から唇をねだり、舌を絡ませる。






「……どうした?」


「ね…お願い……」


少女からの、自分を求める言葉。

しかし。


「…『お願い』じゃ、分かんねぇ……」


熱く、燃え上がるような視線で彼女を射抜いたまま、言葉では冷たく突き放す。

もっと、はっきり「欲しい」と言ってほしいのだ。

その唇で。

もっともっと、自分を求めてほしいのだ。

彼女に。

羞恥に染まった表情で黙り込んでしまった少女をさらに悦楽の中に堕とすため、

海堂はその動きを更にゆっくりとしたものに変えた。

自分の存在を誇示するように、彼女の内壁を抉る。

既に少女の目は焦点が合ってない。

あと一息。

海堂は、更に彼女を追い詰める。


「なあ…どうして、欲しいんだ、お前……?」


「かおるが…ほしいの……おねがい……」


求めていた、言葉が、遂に。




「……くれてやる、俺の、全てを……」


海堂は低く呟き、そのゆるゆるとした律動を激しいものに変えた。

ぐちゅ、ぐちゅ、と肉が絡み合う音が部室に響く。

その合間に聞こえるのは、淫猥な水音、そして……、「かおる」と、途切れ途切れに自分を呼ぶ、声。

この世で一番大切なものの、声。

不意に、彼女の内部がキュウッと締まった。

絶頂が、近い。

そう察した海堂が、その動きを一層激しく、物狂おしいものに変えた。

彼もまた限界が近かったのだ。






「……か…おる……、かおる……おねがい、いっしょに……」


「…ああ、一緒に……いこう。」


彼女の声が、高く高く響く。

その、言葉にならない言葉が、海堂を高みへと押し上げる。

お互いがお互いを、更なる高みへと誘っていく。

ふたりはひとつに融け合って、高く高く、夕闇を越えて。







もうすっかり暮れた街並みの中、海堂と少女は帰宅の途についていた。

手もつながず、ただ寄り添って、歩く。

そんなふたりはも、とても初々しいものとして道行く人の目に映った。

先程までの熱く絡み合い、愛し合っていた姿を連想させるものはそこにはない。


「……明日は、朝錬休め……。……朝の自主トレもダメだ」


「…大丈夫、ですよ…」


「ダメだ。……すまねぇ。……無理、させちまったな」


笑顔でかぶりを振る少女。

――分かれ道が、近づいてきた。

海堂の家と少女の下宿先の分岐点。歩道の片隅で、しばらくの間手をつないで佇む。

別れ難いのだ。

海堂も、少女も。


「こんな日は…ずっといっしょに、いたい、な」


少女が呟く。


「ああ……、早く大人になりてぇ。…大人になれば……一緒に暮らすことだって……」


「え?」


少女が訊き返す。


「…なんでもねぇ! ……じゃあな。今日はゆっくり休め」


自分の家へと続く道に歩を進めて少ししばらく行った後、海堂は背中に視線を感じて振り向いた。

――少女が、見つめていた。

振り返った自分に笑顔で手を振り、呼びかけてくる。

さほど大きな声でなかったのにも関わらず、その声は海堂の胸に響いた。


「……先輩、好きです」








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