観月×巴そのC



数度身じろぎをして、ぼんやりと巴は目を覚ました。

見慣れた男の部屋。

暖かいベッド。

隣に感じる人肌。

全てが馴染んだもので、巴は再び夢の世界へ旅立とうとした。

すると、隣の人肌が、いつもの癖で巴を抱き寄せた。

温かい体温に包まれ、まどろみの中の薄ぼんやりとした視界で男の寝顔を確かめながら、はた、と思った。

どうして、服を着ていないのだろう。

いや、着ていないのならば、着ていない理由は一つしかないのだが。

昨日は確か、木更津たちの部屋で遊んでいて、

柳沢に「女らしくない」だの「色っぽさとは程遠い」だの、散々言われてやけっぱちになって・・・そう。

酒を飲んだ。

飲んだのだ。

木更津の言うままに。

いま、巴ははっきりと目覚めて、昨晩のことを思い出した。

顔を真っ赤にして、昨晩観月に行った数々のいやらしい行為を反芻していた。

最悪だ。

色っぽいとかそうじゃないとかの問題じゃない。

嫁入り前。

女子高生が、どっかのピンクネオンのビルで働いてるお姉さんみたいなことをっ・・・!

いや、ピンクネオンのお店だってあそこまでサービスしまい。

穴があったら入ってしまいたい。

そしてその奥をさらに掘り進めてブラジルまで行ってしまいたい。

こんにちは、ジャッカル桑原。

巴は本気でそう思った。

隣の体温がごそりと動いた。

あまりの羞恥に背けていた顔を、そっと隣の観月へ向けてみた。

目が、開いていた。


「み、み、観月さん・・・!!」


「おはよう。巴くん。」


にこりと微笑まれて、巴はますます言葉を失った。

何故、そんな優しい笑顔を向けるのだろうか。

いや、心なしかいつもよりも機嫌がいいような気もする。

そんな巴の心境を無視して、観月は巴ににこやかに言った。


「どうやら、昨日の事は覚えているようですね。ちょっと安心しましたよ。大分酔っていたみたいですから、

  もしかして酔っ払っている間のことは忘れるタイプだったらどうしようと思ってました。」


「・・・あ、あの・・・。」


「ん?・・・なんですか?」


巴は、大きな黒い瞳に涙を浮かべて観月を見つめていた。






「ご、ごめんなさい・・・。よ、酔っ払ってたからって、あんな・・・!」


涙はとうとう瞳からこぼれて、白いシーツにしみを作った。

それを見て、驚く観月。

巴の涙をぬぐってやる。


「泣かなくてもいいじゃないですか。」


「だ、だって・・・!ほんとにごめんなさい・・・!」


土下座しそうな勢いの巴を落ち着かせるために、観月は巴を抱き寄せた。

背中をさすってやる。


「そんなに・・・気にするほど恥ずかしいですか?」


「だって!観月さんを襲ったんですよ?もう、恥ずかしくて恥ずかしくて・・・!」


「別に、僕はきみを襲うときは恥ずかしくないんですが・・・。」


微妙な慰め。

言ってからそのことに気付いて、聞かなかったことにしてくれないかな、と観月は思った。

第一、何と慰めればいいのかわからない。

昨日のような情熱的な巴も、悪くないと思っているのだし。

むしろ、夜はあれくらい積極的でもいいかな、とさえ思う観月である。

そう言ってやることが、果たして彼女の慰めになるのかはわからないので言えずにいるが。


「とにかく、僕は気にしていませんから。ほら、泣き止んで。

 一緒に夜を過ごして、起きたとたん泣かれるのは後味悪いですよ。」


「う・・・ごめんなさい・・・。」


巴は自分で涙を拭く。

そして、ふと何かを思ったようだ。

がばりと起き上がって観月を見た。

その勢いに驚く観月。


「そうだ、観月さん!!」


「な、なんです?」


「あたし、観月さんを襲った責任とります!

 お婿にいけなかったら、あたしの家にきて下さい!!絶対幸せにしますから!!」


真剣な眼差しの巴。

観月はその男らしい発言にあっけに取られ、そして、笑った。


「ぷ・・・あはは。あはははははは!」


「な、何笑ってるんですか!人が折角いい案だと思って言ったのに!!」


観月が何故笑うのかわからない巴。

一世一代の名案だと信じて疑ってないようで、拗ねたように頬を膨らます。

笑いのツボを刺激されたのか、なかなか笑いが止まらない観月も、これ以上巴がへそを曲げては困ると思い、

何とか笑いを落ち着けた。






「あはは・・・。ああ、ごめんなさい。可笑しくて。」


「・・・失礼ですね。どこがおかしいって言うんですか。」


真剣に聞いてくる巴。

そのふてくされた表情さえも可愛く見えるのだから、自分は相当重症だと思う。

巴を引き寄せて、再びふとんの中に埋もれた。

観月はいつものように、耳元で囁くように言う。


「それは、プロポーズですか?」


「へ?」


きょとんとする巴。

その様子に笑みを深くして、もう一度言う。


「プロポーズなんですか?さっきのは。」


「え、あの。そ、そう聞こえました?」


「誰が聞いてもそう聞こえますよ。・・・困った事に、僕は長男なのでお婿にはいけませんが。」


家を継ぐ気はこれっぽちもないが、先のことは誰にもわからない。

でも、その台詞を聞いてしょんぼりする

巴を見て、婿養子に行くという案も視野に入れようと観月は思った。

そんなことはおくびにも出さずに、とりあえず当面の希望を巴に伝える。


「でもね、お嫁さんなら、きみみたいな子が一人くらい欲しいですね。」


それを聞いた巴は、きょとんとしたあと、次に真っ赤になって俯いた。


「・・・お嫁さんは一人しか貰えませんよ。日本では。」


「そうですね。それじゃ、一人だけ。」


遠まわしに、たった一人きみが欲しい、と言っているのが伝わったのか。

巴相手では伝わらないかもしれないが、偽らざる観月の本心でもあった。


「観月さん・・・。」


少し間が空いて、ようやく巴は深刻そうな声を出して観月を呼んだ。


「なんです?」


「あたし、お父さんと二人暮しだから、お父さんと同居でもいいですか・・・?」






伝わったのかどうか、微妙な返答だった。

観月は、あえて先ほどの台詞について何も言わずに、苦笑した。


「そうですね。それはまた、改めて追々考えていきましょうか。――それより。」


「それより?」


巴が真剣に聞き返してくるのを観月は笑いながら見つめて、そっとキスをした。


「?観月さん?」


不思議そうに見つめてくる巴を、観月は優しく抱き寄せた。


「昨日の激しい巴くんもよかったんですが、やっぱりいつもの巴くんもいいな、と思いまして。

 ・・・まだ、学校までには時間がありますから。」


何も身に付けていない肌に、観月の指が滑る。

その台詞の観月の意図を感じ取って、巴は困った顔をした。


「・・・元気ですね。」


「きみさえいれば、ね。」




終わり







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