リョーマと菜々子



「また叔父様ったら、こんな本読んでらっしゃる」


ソファーのクッションの間に隠されていた南次郎の愛読雑誌を手にして菜々子は溜息をついた。




今日は菜々子ひとりで越前家で留守番をしていた。

叔父と叔母は夫婦で出かけてしまったし、従弟のリョーマは大会が近いこともあって最近は帰宅時間が遅い。

一人、エロ本と一緒に取り残された菜々子は、無造作にそのページをめくった。

南次郎がいつも、えげつない笑みをうかべて見ているそこに写るのは若い女性のあられもない姿。


「私だって、この娘と同じくらいの年なのに」


子供のようにコートを跳ね回る南次郎に心を奪われたのは幾つの時だっただろうか。

しかし菜々子の気持ちなど煙にまくように、南次郎はいつでも子供扱いだった。




エロ本にはふくよかな胸をあらわにしたモデルが、挑発するようなしぐさで菜々子を見ている。

女子高で育ってきたせいか、菜々子は未だに男性経験というものが全くなかった。

ページで踊るように悩殺ポーズを決めているモデルは別世界の住人のようにも思える。


「叔父様は、こういうのがお好みなのかしら」




性的な対象として自分を見て欲しい。

その秘められた菜々子の想い。




誰もいないのはわかっているけど、それでも菜々子はもう一度誰もいないことを確かめて、

部屋中のカーテンを下ろした。

そして、一つづつ、ブラウスのボタンをはずしてゆく。




風呂や自分の部屋以外の明るい場所で服を抜く、という行為は菜々子を小さな興奮へと導いた。

想像するのは、南次郎の事。

自分をみて・・・そして叔父はグラビア女性達に向けるような、あんな目をしてくれるだろうか。

それを想うだけで、脳内の感覚が麻痺していく。

そして、スカートも下ろす。

パサリっ、と服を脱いだ乾いた音が室内に響く。




そして、エロ本と同じような姿勢をとってみた。

両手で胸を掴んで、尻をつきだす。

寝転がって、両またを開いてみる。




そうしたら『女』を感じてくれるんだろう。

だんだんとエスカレートしていく菜々子の仕草。




その時、ガシャ、と何か物音が聞こえた。

慌てて、菜々子は起き上がった。


「カ・・カルピン?」


想像できる物音の主の名を呼ぶ菜々子。


「ニャー」


そうドアの向こうで答える飼い猫のカルピン。


「おいでカルピン」


安堵して、菜々子はブラとショーツ姿のまま扉をあけた。




しかし、そこにカルピンを抱っこして立っていたのは。


「リ、リョーマさんっつ」


「見えたから。あっち」


そう指差すのは、半透明になっているもう一つのドア。

そして、呆然と動けない菜々子を無遠慮に上から下まで見つめると言った。


「まだまだだね」




「−−−−−っつ」


我にかえった菜々子は自分の格好をかえりみた。

何か体を覆うものをと思うが、周囲には先ほど脱いだ自分の服くらいしか見当たらない。


「私・・・・料理を作ってて、それで服にお湯をかけてしまったの。だから・・着替えを」


脱いだブラウスで胸元を隠しながら口からでまかせの言い訳を口走る菜々子。

しかし、言葉を続かずにブラウスがはらりと落ちる。

両腕をリョーマに掴まれて、腕が直線にだらりとさげさせられてしまう。

小さな体からは想像つかないような強い握力を感じ、豹にねらわれた兎のように戦慄が菜々子の中にはしる。

まだまだ子供の中学生の従弟、そう思っていた相手なのに。


「・・・・どこ?お湯かけたの。ちゃんと冷やした?」


リョーマの言葉に(あぁ心配してくれてるだけね、と)ほんのりと安堵しそうになった瞬間。


「嘘が下手だよね、菜々子さん」


そういってリョーマは菜々子の耳たぶに唇を押し当てた。

くすぐったいぞくりとくる快感が菜々子の全身を走る。




心と体と状況がバラバラで。

ただ目の前にいる弟のように思っていた従弟を脅威に感じて。

菜々子はゆっくりと首を横にふった。







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