リョ桜 続き




ほんのりしょっぱい下唇を舌先でなぞれば、いともかんたんに扉が開く。

侵入を許されたそこに熱を帯びる舌を差し入れると、桜乃の身体がピクッと震えた。


「…ふ…っ…」


生まれて初めての「ほんとうの」キスは、心臓をわしづかみにされたように苦しく、

足元から溶かされていくように甘やかだった。

それはお世辞にも「上手い」舌使いではなかったけれど、桜乃にとっては、これ以上ないくらい
甘美なもので。


だめ…リョーマくん、あたし、変だよ…)


大好きな人とする口づけの、あまりにも大きすぎる感動に、桜乃は思わず涙を零した。

リョーマがそっと頬に唇を寄せ、やさしく涙を吸い取る。

そのまま再びキスをすると、桜乃は「エヘヘ…しょっぱい」と照れ笑いをした。

その笑顔がなんとも可愛くて、リョーマは桜乃の細い身体をきつく抱きしめた。


(…なんか…こいつ、こんなに)


――小さかったんだ。




初めて知る女のか弱さ。

ついこの間までは男子も女子もかわらないと思っていた体格の差は、

実感を伴ってリョーマの目前にあった。

そしてそれは、彼に、男としての役割を自覚させるのだった。




「嫌だったら、やめるから」


照れ隠しが仇となり、ぶっきらぼうになってしまったが、桜乃は微笑んだまま首を振った。


「…嫌じゃないよ。だって」


『リョーマくんだもん』という言葉は、続かなかった。



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