リョ桜 (節分)



昼休み。

隣のクラスの竜崎桜乃に呼び止められた越前リョーマは、彼女の手の中の包みに目をやった。


「なに?それ。」


問うと、いつものように視線を下にして、はにかみながら桜乃は答える。


「えっとね、今日、節分でしょ?えと・・・リョーマくんと一緒に、その、食べようと思って作ってきたの。」


「・・・太巻きなら、今日母さんが作ってたよ。今日の晩飯用に。」


「え!?あ、ごめん!!ならいいよ!!」


涙目になった桜乃を見て、リョーマはしまったと思った。

余計なことを言ったか。

リョーマは桜乃のつつみを取り上げた。

その行動に驚く桜乃。


「あ、あの・・・?」


「いいよ。寿司、嫌いじゃないし。」


リョーマの優しさに、また涙が込み上げる桜乃。

涙腺が弱いのは生来の物だ。


「なんでまた泣くの。・・・で、どこで食べるの?」


「えっとね、校庭なんかどうかな?ベンチのあるとこ。」


「ふーん。ま、いいよ。」






「ね、竜崎。なんで節分って太巻き食べるの?」


包みを開けている最中に言われた言葉に、桜乃は驚いて顔をあげ、

そして目の前の彼が帰国子女であることを思い出した。


「えっとね、今年一年、幸せになるようにってお願いしながら食べると、一年幸せに暮らせるんだって。

  他にね、いわし食べたり、豆を撒いたりするのも悪い事を追い出したりするためなんだって。」


「ふーん・・・。そう。でも、この太巻き、意外とでっかいね。どうやって食べるの?」


「え?えっと、太巻きはね、その年のいい方角を向きながら黙って一気に食べるんだって。」


「?よくわかんない。竜崎、やってみせてよ。」


「う、うん。」


今の説明では確かにわかり辛いだろう。

しかし、桜乃は困った。

自分で作った太巻きは、お世辞にも形が良いとは言えず、丸かじりするには不安定だ。

こぼすのも恥ずかしいし、なにより好きな相手の前で大きな口をあけて物を食べるのに抵抗を感じた。

しかし、困っている桜乃を見つめているリョーマは、興味津々で見つめている。

やるしかない。

少しでも不細工に見えないように祈りながら、桜乃はその太巻きを食べ始めた。






口に入れると、大口を開けているのが恥ずかしくて顔を真っ赤になってしまう。

そのせいで思ったよりも太巻きが奥へと入ってしまった。

喉につっかえる。

咳き込みそうになった。

噛み切れない。


「ん・・・!う・・・。」


「どうしたの?もしかして、つまった?」


背中をさするリョーマを涙目で見上げる桜乃。


「苦しいなら吐いてもいいよ。」


「ん・・・!!」


そこまではできない!

桜乃は必死で噛み切った太巻きを飲み込んだ。

ごくりと喉を ならして飲み込むのが恥ずかしくてたまらない。


「大丈夫?飲み物いる?」


「う、うん・・・。」


リョーマの手からお茶をもらい、それを飲み干す桜乃。

恥ずかしくて死にそうだ。

消えてしまいたい。

桜乃は真っ赤になって縮こまってしまった。


「どしたの?」


「ご、ごめんなさい。」


「謝る事ないでしょ。なんか悪いことしたわけ?」


「え・・・でも・・・。」


「むしろ、いいもの見れたと思うけど。」


「?」


不思議そうな顔をする桜乃。


「ま、そのうちいつでも見れるかな。」


「リョーマくん?」


「こっちの話。・・・あ。竜崎、御飯粒ついてるよ。」


言って指先でその粒を取り上げるリョーマ。

またも顔を真っ赤に染める桜乃。

その様をみて、やれやれ、まだまだ先は長そうだなとリョーマは思った。



 おわれ。






back