切杏



「いいから、じっとしてろよ。」


そう言うと切原は杏の耳に軽く噛み付いた。

ビリッと身体の芯に電気が走って杏は冷たいテーブルで跳ね上がる。

その拍子に何か、溢れ出た。

熱を孕んだ何かが、あの部分から溢れ出した。

はっきりと分かる感触に杏は目を固く瞑った。

杏の様子に気付く風もなく、縒れて落ちたジャージを軽く他方へ蹴ると

切原はぐい、と杏の脚をテーブルの上へ持ち上げた。


「っ!!」


杏は両手で顔を押さえる。

意味がないのは百も承知だ。


「あれ?」


その部分の薄布の色が濡れて濃くなっているのを確認すると、切原は短く口笛を吹いた。


「すげぇ、濡れてる。」


言わなくても、いいのに。

杏は熱くなる手の下で唇を噛んだ。


「ふうん?」


切原の指が、つん、と湿った部分を突付くと徐に指を這わせた。

時々、ぞくん、とくる部分に触れるその指先に、杏は抗いようもなく素直に反応する。


――何で!?何!?――


自然と荒くなる息使い。

喉元に直撃する甘い刺激に唾液が溢れ出す。

嫌なのに、この衝動がもどかしい。

杏の身体が、表面から熱を帯びて弛緩してくるのが分かって切原は軽く眉を上げた。

無抵抗なのも味気ないが、半裸の乱れた感じがサディスティックな気分を刺激する。


――虐めたいって訳じゃあないけどな。――


じゃあせいぜい優しくしてやろう。

切原はすっかり熱く湿った杏のショーツを擦り下ろした。

脚を開かれ、中に篭っていた熱気が開放される。

熱い蜜に潤った杏の秘部が瞬時に冷やされ杏は身震いをした。


「ぁ……っ!」


その恥ずかしい自分の姿を見まいと固く目を閉じる。

が、ぬるりとした感触に一気に跳ね起きた。


「な、何してるの!?」


自分の中から溢れる熱を、もっと熱い何かが拭い取っている。






あんな所を、舐めてる。


「や、めて!やぁっ!」


じゅっと音をたてて愛液を吸い上げ、切原は悪びれずに目元で笑った。


「いいから、じっとしてろ。」


あの部分に軽く唇を当てて喋られ、吹きかかる息と声の振動に杏はびくん、と痙攣した。

こんなの、嫌だ。

そう思っているのに、切原の舌が花弁を押し開き芯を舌でいたぶり始めた時、

杏は先刻と同じ衝動を感じて身悶えた。


「い、やぁ……っ。」


びくびくと震えながらその花芯が刺激を求めて硬化していく。

切原はたっぷり唾液を含ませた舌で、丁寧に花芯を舐め上げながら、

滴りそうに潤った蜜壷に、最初の指をつぷん、と侵入させた。


「い、たい!」


形容し難い痛みに、弛緩していた杏の身体がぎゅっと戦慄く。


「これだけ濡れてりゃ大丈夫だから、じっとしとけ。」


少しずつ、奇妙に動きながら指が熱を求めるように奥へと挿し入れられた。

何とか言われる通りに力を抜こうとするが、うまくいかない。

痛みよりも異物感が大きくて、杏はただ大きく目を見開き、空気を求めて喘いでいる。

痛い、苦しい、その筈なのにぞくぞくと這い上がろうとする皮膚の内側の蠢きが止まらない。


「ほら、入ったぜ。」


くちゅ、と音を立てて切原が膣内で指を軽く折り曲げた。


「中、メチャクチャ熱い。」


「あ!」


切原の指がずるりと引き抜かれ、今度は一気に突き入れられる。

愛液が押し出され。

テーブルの上にぽたぽたと糸を引いて零れた。


「ふ……ぁ!」


熱く潤んだ杏の目尻にちょこんと唇を落とすと、切原は悪戯をしている子供のように笑った。


「悪ィけど、そろそろ我慢できねェから、挿入る。」


何を、と聞く間もなく、杏の秘部に指の比ではない質量のものが押し当てられた。

どうするのか、などという事は流石に知っている。

知っているがやってみるのは大違いだ。






「力、抜け。」


無理に決まっている。

杏は言葉もなく数回頭を振った。

ぐっとそれが杏の花弁を押し割ろうと進攻してくる。

が、杏はテーブルの上を僅かに滑って後退する。


「おい。」


切原はムッと唇を歪めると杏の腕を押さえつけた。


「我慢できねェって、言ったろ。」


「そんなの、入らない……っ!」


悲鳴混じりの言葉が終わるか終わらないかの瞬間、身体を半分に引き裂かれるような痛みが走って

杏は大きく弓形に仰け反った。


「き、つい。」


ガクガクと震えている杏の身体を押さえ込みながら、切原は大きく息を吐く。


――そいや、処女とやんのは初めてだっけか。――


杏の内側が、責めるように切原を締め付ける。


「……はっ!」


苦しげに眉を寄せ、息を吐く事でこの圧迫から逃れようとする杏の髪をぎこちなく撫でてやり、

切原は少しだけ困惑していた。


――こんなんで動けるか?――


動いたら、すぐに昇華してしまいそうだ。

それも、男として格好が悪い。

が、どの道動かなければ杏の苦しさが増すばかりだろう。

そう、勝手に言い訳を付けて切原はぐっと腰を引いた。


「んっ!」


杏は縋るように腕を上げると切原の肩を捕まえた。

やっと開放されるのかと力の緩んだ杏の中に、再度切原が突き立てる。

最初はゆっくりだったその動きが、すぐにスピードを上げ、激しくなっていく。


「ふ、あぁっ!」


――イテっ!――


杏が無意識に立てた爪が、肩に食い込んで切原は眉を顰めた。

が、動きは止まらずにますます激しくなる。

杏の中が熱く蕩けて、切原の身体も釣られるように熱を放つ。

頭の中のヒューズがバンバンと派手な音を立てて飛んでいく。






「や、ぁあ……っ!」


汗を纏ってしっとりと濡れている杏の肌。

苦しそうに顰められた眉間が少しずつ緩められ、赤く染まった目元が正気を失って潤んでいく。


「……あっ、ぁっ!」


何時の間にか上げられている縋るような声。

肩に食い込む指先。

膣内で、出したら何て言うだろうか。


――ヤバい!――


最後の瞬間だけ、理性が勝った。

放たれた白い精液が、ポタポタと杏の身体に零れ切原は大きく肩で息を吐いた。

引き抜いた切原のペニスには、愛液に混ざった彼女の初めての証が残されている。

まるで百メートルを全力疾走した後のように激しい呼吸がやっと収まった後、

切原の耳の奥でサァっと全身の血液が引いて行く音を聞いた。


――……やっちまった。――


切原は気まずそうにジャージを履き直すとTシャツを脱ぎ、

呆然としている杏の身体に飛び散った自分の精液を拭いてやった。


「……大丈夫か?」


大丈夫な訳あるか。

切原は自分の質問の間抜けさに奥歯を噛んだ。

後は、黙ってただ彼女の身体を拭き続けた。

橘に密告されるだろうか、真田に密告されるだろうか。

それとも、泣かれるだろうか。

どれにしてもダメージは大きい。


――チクられたら、半殺しだなこりゃ。――


それでも、泣かれるよりはましかも知れない。

ゆらり、と突然杏の身体が幽霊のように起き上がり、切原は文字通り飛び上がると後退りした。

目が、据わっている。


「……わ、悪ィ!」


思わず口にした瞬間、ブン、と唸りを上げてテーブルから飛んだ杏の右ストレートが切原の顔面を直撃した。

今度は火花が散るではすまない。

脳の中身が揺れた。


「……っにしやがる!」


「それはこっちの台詞よ!」


まったくその通りだ。

切原は口を噤んだ。

思わず土下座する。






「スミマセン。」


ひらひらと鉄拳を振るった右手を振って脱ぎ散らかされた服を身に付けると、杏は腰に手を当てて顎を反らした。

いたたまれずに切原はしゅんと頭を垂れる。


「責任。取ってもらうからね。」


「は?」


聞き返した切原は杏の真っ赤な顔を見て面食らった。

杏はふいっとそっぽを向く。


「アンタが兄さんに負けるまで、コイビトになってもらうから!」


情けなさそうに杏を見上げていた切原はパタパタと宙に手を泳がせた。


「そいつは……。」


「文句があるの!?」


ぐん、と覗き込むように迫った杏の顔。

に、切原は不意打ちで口付けをした。


「な!」


勝ち誇ったように切原はにやりと笑って見せると赤面する杏に言い放った。


「そいつは、兄ちゃんに勝ち続けねぇとだな。」




                   end








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