千石×巴
それから、巴は一字一句ゆっくりと言葉を紡いでいった。
自分が見た夢のこと。
出会った時にとった不審な行動のこと。
そして、ずっと千石を意識していたこと。
時々言葉に詰まりながらも、全てを話した。
ようやく話が終わった時、巴は千石の手が自分の頭を撫でてないことに気付いた。
(やっぱり…軽蔑するよね)
俯いたまま、千石の方を見ることが出来ない。
彼の顔を見るのが怖かった。
「巴」
千石の声がした。
優しい、優しい声だった。
巴が驚いて顔を上げる。
彼は、とても嬉しそうな顔をしていた。
「千石さ…」
巴が言い終わらない内に、彼女の身体は優しく抱きしめられた。
「すごく…嬉しい!!」
抱きしめる力が強くなった。
慌てて巴が千石を見上げる。
「軽蔑…しないんですか?…だって、私…一人で変なこと考えて…ドキドキして…」
巴が恥ずかしそうに言うと、千石は巴の頭を胸に抱いた。
「…聞こえない?」
押し当てた耳に聞こえてきたのは、いつもより早い心臓の鼓動――。
「…ドキドキしているのは巴だけじゃないよ。キミがそんなことを考えてくれたのはとても嬉しいし。それに…」
千石の唇が、巴の耳元に近づいた。
「オレは…キミが欲しい」
自動車の走る音、子供達の笑い声。
よくある休日の風景。
でも、カーテンを閉め切ったその空間は、日常の中にあっても非日常のようだった。
シングルベットの上、巴の目の前には上半身に何も身につけていない千石がいる。
巴はというと、上着は脱がされ、スカートに靴下を履いただけの姿だ。
巴の身体に、優しいキスが降ってくる。
先程から何度されているか分からない。
くすぐったくて、でも何か変な感じで。
いつの間にか身体が火照っている。
巴の上半身を愛しながらも、千石の指は彼女の秘所を愛撫していた。
ゆっくり、ゆっくりと柔らかいソコを往復する。
時折、湿り気を帯びた指で花芯に触れると、巴の身体が大きく痙攣した。
でも、巴は声を出そうとはしなかった。
口元を両手で押さえて、きつく目を瞑っている。
「口…押さえてたら、キスもできないよ?」
悪戯っぽく千石が笑う。
「キスも…駄目?」
「駄目じゃ…ないです」
手のひらを除けて、巴の唇が言葉を紡いだ。
「じゃ…キスしよ?」
千石の顔が近付く――。
「!!」
唇が重なった瞬間、巴の目は大きく見開かれた。
少し開いた巴の唇に、千石の舌が侵入したからだ。
「…ん…ふ…」
巴が驚いている間にも、千石は深く巴を侵していく。
しばらくして巴が千石の胸を叩くまで、彼は巴の舌を味わっていた。
「…大丈夫?」
千石が問いかける。
「…はい」
何度か大きく空気を吸い込んで、巴が答えた。
「…でも、苦しくて…頭がボーっとしちゃいます」
「こういうのは…嫌い?」
千石が困ったような顔をする。
「…嫌いじゃ…ないです」
元々赤くなっていた巴の顔が更に赤くなった。
「…じゃ、しよ?」
嬉しそうな千石が唇を落としてきた。
「ん…ふ…んんっ」
口づけを交わす音に、水音が混じる。
千石は巴の唇を味わうと共に、秘所での指の動きを再開させていた。
ソコは充分に潤ってきている。
準備は出来ているようだった。
「…巴」
唇を離して、千石が巴を見つめる。
「…いいかな?」
巴が小さく頷く。
ちゅ、と千石はキスで応えると、巴の秘所に自身を宛てがった。
「あ…や……いたっ…」
押し広げられる痛みに、巴がきつく歯を食いしばる。
目尻には涙も浮かんでいた。
「巴…力…抜いて…」
千石も苦しそうな声を出しながら、優しく巴の頭を撫でてやる。
「…大きく…息…吐いてみて」
「…は…ぁ…」
ゆっくり、ゆっくりと巴の肩が上下する。
「…そう。そのまま…」
巴の髪を梳きながら、千石が更に奥へと進んでいく。
そして、千石が根元まで収まる頃には、巴の目尻には涙の筋が出来ていた。
「…痛い思いさせて、メンゴな」
千石の舌が巴の流した涙を舐め取る。
繰り返している内に、ゆっくりと巴が目を開いた。
「…大丈夫です……流石に、痛くないと言ったら…嘘になりますけど…でも…」
千石の背中に回した腕に力が込められる。
「…千石さんと一つになれて…嬉しいです」
千石も巴を抱きしめる力を強くした。
「…やっぱ、オレってラッキーだな…巴と一緒になれて…本当に…本当に良かったよ…!」
それから、千石は優しく口づけると、再び律動を始めた。
「…ん…っは…ぁっ」
喘ぎ声とも、悲鳴ともいえない声が、巴の唇から零れだす。
いつしか、巴を支配していた痛みは、大分和らいでいた。
代わりに、何とも言えない気持ちが巴の中で大きくなっていく。
「千石…さん!…せん…ごく…さ…!」
きつく、きつく彼の背中にしがみつく。
千石も、限界が近いのを感じとって、更に律動を速めた。
「…巴!…と…もえ!」
「や…ぁっ…あっ!」
「――っ!」
「ぁ――っ」
――そして、千石が精を吐き出したのと同時に、巴も意識を手放していた。
「…遅くなっちゃって、メンゴな」
夜の並木道、千石が繋いだ手に力を込めてきた。巴も応えるように、握り返す。
「…千石さんは悪くないですよぅ…むしろ、私が……」
そこまで言って、巴の言葉は止まった。
千石が見下ろしてみれば、街灯の灯りの下、巴の頬は赤く染まっていた。
あの後、意識を失った巴が再び目覚めた時には、太陽は既に沈んだあとだった。
千石は…といえば、後片付けをした後、巴と同じく睡魔に負けて眠ってしまったのだという。
だから、その後の千石の家族からの『今日は帰れない』という連絡は、彼の幸運のお陰かラッキーだった。
それから、二人は千石の家で夕食を食べた後、昼間通った道を再び歩いていた。
ただ、昼間と違って、今度は巴の家まで千石も一緒だったが。
「…でも、無理させたのはオレだからさ…」
俯いた巴の頭の上に、千石の声が降ってくる。
「…青学は、明日も朝練あるだろ?…大丈夫かな?」
「…だ・大丈夫です!この位!…アイタタ」
元気良く足を踏み出した巴だが、鈍痛に足を止めた。
「…全然大丈夫じゃないじゃん」
困ったような声の千石が、巴の身体を支える。
「おんぶする?」
「…流石に街中では…」
「お姫様抱っこは?」
「…もっと駄目です…」
楽しそうな顔の千石と、真っ赤になった巴が見つめ合う。
「…それじゃあ、ゆっくりあるこっか」
「…それが一番ですね」
ようやく意見がまとまった。
また二人歩きだす。
ただ、先程のように手は繋がれず、千石にもたれるように巴が腕を絡めて、だったが。
街灯に照らされ、二人はお互いの体温を感じながら歩いた。
後に繋がる二人分の影が、いつまでも二人の後をついてきていた。
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