裕太→桜乃
目の前で、こける少女。
不二 裕太は、ただ眺めるしかなかった。
だって、段差も石も何もない所だったから、予測のしようもない。
派手にすっころんで、しばらく動かなくなった。
「おい。大丈夫か?」
声をかけて身体を起こしてやると、涙目になってこちらを見上げてきた。
「ご、ごめんなさい・・・。」
紺色のセーラー服と、長い三つ編み。
肩にはテニスバッグ。
見たことのある顔。
「お前、青学の・・・ええと。なんだっけ?」
「あ、の。えっと、竜崎 桜乃です。・・・聖ルドルフの、不二さんですよね?」
「そうそう。あのばーさんの、孫だ。お前も、よく俺のこと知ってたな。」
桜乃は少し恥ずかしそうに視線を逸らした。
照れているのだとわかるほど、裕太は男ができてはいないが。
「リョーマくんとの試合、覚えてます。・・・二人とも、凄く頑張ってて、カッコよかったですから。」
微笑まれた。
裕太は思わず赤くなった。
こんなふうに微笑まれると、どう接したらいいかわからない。
女の子からかっこ良いと言われたこともないように思う。
「あ・・・と。おい、大丈夫か?あ、足、血が出てるぞ。」
テニスをしているとは思えないほど細い足からは、血がにじんでいる。
「俺、バンソウコウ持ってるから。やるよ。」
「え!?いいです!大丈夫ですから!」
「血がでてる。ほっとけるかよ。」
カバンからバンソウコウを取り出す。
白い足が良く見えるように屈む。
傷は浅いようだ。
「あ、傷洗ったほうがいいか。この辺水道あったか?」
「あ、あの!ホントに大丈夫ですから!そんなに痛くないですし・・・!
あの、私が悪いんです!ぼーっとしてたから・・・」
「でもなぁ・・・」
目の前でこけて、血がでてる女の子を放っておけない。
男なら、誰だってそうだろ?
しかし、桜乃は本当に申し訳なさそうに、顔を真っ赤にして困っている。
何だか、こちらが悪い事をしているような気になった。
二人して途方にくれていると、小さな人影がやってきた。
その小さな影は、裕太の持ったバンソウコウを取り上げた。
「ドーモ。もういいよ。これ、俺が預かるから。」
これというのは、バンソウコウのことなのか、目の前の少女のことなのか。
テニスバッグを抱えた少年は、戸惑う桜乃の手を引いてさっさと歩いて行ってしまった。
相も変わらず、不遜な少年だ。
あの少年のことだから、珍しい事ではないだろうが、裕太は何だか腹が立った。
あの少女を助けようとしたのは、俺なのに。
なんだかよくわからないわだかまりを抱えたまま、裕太はしぶしぶ家路に着いた。
おわる。
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