乾朋




わかってる。

あなたは他の子を見てることを。

その子が私の親友だってことも。

だって、ずっと見てきたんだもの。

見てればわかる。

ダメだってわかってる。

でも、この気持ちは・・・

あなた本人に伝えなくちゃ  ダメ。




「リョーマ様!ごめんね、昼休みに呼び出して…」


「…別に」


朋香は、昼休みにリョーマを屋上に呼び出した。

もちろん、告白をするためだ。

正直、リョーマが他の子が好きなことくらい分かっている。

その子が桜乃だということも。

でも、それでも、そのままこの気持ちを押さえ込むなんてことは朋香にはできなかった。

リョーマが好きだというのは代わりも無い事実だから。

だからこそ、気持ちを伝えるだけでも伝えておきたかった。




「で、話って?」


「…私ね、リョーマ様が好きなの」


朋香はまっすぐにリョーマを見つめ、言った。

リョーマと朋香の間に沈黙が続く。

その沈黙を先に破ったのはリョーマだった。


「俺、他に・・・」


「あー!ストップ、リョーマ様!」


「他に好きな子がいるって言いたいんでしょ?…ついでに、その子が桜乃だってことも。」


「へぇ…、俺って結構わかっちゃう?」


「私にはわかる、って言ったほうがいいかしら」


朋香はずっとリョーマを見てきたのだ。

わからない方がおかしいかもしれない。


「ま、そういうことだから。わかってくれる?」


「えぇ、もちろん。…でも、もし、桜乃と付き合う気があるなら…

 約束して欲しいことがあるの」


「何?」


「1つ!『桜乃を泣かせない』、2つ!『桜乃を幸せにする』。この2つが守れないんなら、

 絶対に桜乃と付き合わせないから!」


朋香は指を2本立ててリョーマの目の前に突き出した。


「…簡単。絶対に守ってみせるよ」


「言ったわね?じゃあ、付き合ってもいいわよ」


「…なんで俺と竜崎が付き合うのに小坂田の許可が必要なわけ?」


「だって、桜乃は私の親友だもの。幸せになってほしいわ。

 それに、リョーマ様が桜乃を幸せにするとは限らないもの!」


「それって、俺を信用してないってこと?」


「そう思うんならそう思っていいわよ」


ニッと朋香が笑う。




「まぁ、リョーマ様なら多分大丈夫だと思うけどね」


「『多分』じゃなくて『絶対』にだよ」


リョーマは少し呆れたように言う。


「…わかったわ。絶対に約束してよ」


「もちろん。それじゃ、俺教室に戻るから」


「うん。ありがと。」


リョーマは教室へと戻っていった。




リョーマが階段を下りる音がしなくなった。

朋香の頬に涙が伝わる。

リョーマの前では出てこなかった涙。…いや、出さなかったといったほうが正しいか。

桜乃もリョーマも大好きだ。

だからこそ、2人には幸せになって欲しい。

でも、自分はリョーマが好きで好きでたまらなかった。

気持ちを伝えるだけで良い。

自分とリョーマが付き合うようにならなくていい。

そう自分に言い聞かせていた朋香。

だから、すぐには涙が出なかった。

リョーマと桜乃はきっともうすぐ付き合うだろう。

桜乃は朋香の想いを考えて、なかなか告白にいけなかったのだ。


(…とりあえず、桜乃には報告しておかないとね…)


制服の袖で涙をふきながら朋香はそう思った。


(もういいかげん、リョーマ様と付き合いなさいよって!)


まだ涙は流れ続けている。

このままの顔では、授業には正直出れない。


(どうしよ…こんな顔、桜乃には見せれない…サボっちゃおうかなぁ…)


と、その時。


   カタッ


何か音がした。

朋香は、音のした方を見る。見たのは階段へ続く扉の上。




そこには、乾がいた。


「い、乾先輩…」


「…やぁ」


お互い、気まずい空気が流れる。


「せ、先輩!そんな所でサボリですか!?」


朋香は目を袖で擦り笑顔を作った。

きっと乾はさっきの会話を聞いていただろう。

何か言われるかもしれない。

だからこそ、朋香は無理に笑顔を作った。


「小坂田…」


乾が声をかける。


「ほら、早く戻らないと授業に遅れちゃいますよ!?」


「小坂田!」


乾のその声に、朋香はびくっと肩を震わせた。

乾は上から降り、朋香に近づいた。


「飲むか?」


「…はい?」


目の前に(どこから出したのか)差し出されたコップを見て、乾のその言葉に気の抜けた返事をした朋香。


「あの、これ…なんですか?」


朋香はコップを指差し言った。


「乾特製野菜汁改良版だ」


「や、野菜汁?」


「そうだ」




野菜汁ということは、青汁のようなものなのだろうか?

そう考えた朋香は、嫌そうな表情をした。


「…すんごい臭いがするんですけど…」


「そうか?それなりには旨いが」


(それなり!?それなりってなんなの!?)


朋香は心の中でそうツッコミを入れた。


「振られたときには、自棄飲みが一番だろ?」


「そういうものですか?」


「まぁ、騙されたと思って飲んでみなよ」


乾がそう言うと、ずいっと出した。

しかし、色はどの野菜を入れたんだ?と疑問に思うような色だ。

そういえば、噂で聞いたことがある。

『乾特製野菜汁で死人が出た』という…


「あ、その、私遠慮します…そ、それに、普通は自棄飲みじゃなくて、自棄食いじゃないですか?」


「そうか?」


「そうですよ!」


「そうでもないと思うが?」


逃げられない。朋香は思った。

目の前には野菜汁。

出口は乾の後ろの扉のみ。

動こうにも動けない。


(…仕方がない――!!)


朋香は乾が持っていたコップをぶん取り、中身を一気に飲み干す。

全て飲み干したところで。


「…おいしい…?」


「だろ?今回はちゃんと味見したからな」


(『今回は』!?前は味見してなかったの!?)


朋香は心の中でそう思ったが、ツッコミを入れることはできなかった。




   キーンコーンカーンコーン


「あ、チャ、チャイム鳴りましたよ?早く戻りましょ!」


朋香は素早く乾の後ろの扉へ向かった。

乾はその後ろにつく。


「そうしたいが…出来ないだろ?」


「え…?」


朋香が乾の方へ振り向く。

と、その時。朋香の体の力が抜け、バランスが崩れた。

自然と乾に倒れこむ形となる。


(え?な、何?体が…変な感じ…!)


「薬が効くまで25秒…即効性があるな」


「い…乾先輩…何を…」


「なぁに、ちょっとしたモノを入れたんだよ。さっきの野菜汁に」


(――図られた!?)


しかし、気づいた時にはすでに遅し。

乾はひょいっと朋香を抱きかかえ(いわゆるお姫様だっこ)下へ続く階段の扉を開く。


せん、ぱい…どこ、へ…?」


「保健室だ。薬がちゃんと効いているか試したいし、何より保健の先生は今日はいないからな」


「ほ、けん…しつ…!?」




(この人、何をするつもりなのよ!?)


「少し黙っててくれないかな?こんなところ、誰かに見られたい?」


正直、今の格好で他人に見つかるのは恥ずかしい。

しかし、今の朋香にはそれ以上に逃げたいという思いがこみ上げてきた。


(嫌…!怖い…!桜乃…リョーマ様…助けて!!)


朋香はただ、目を瞑ってる事しか出来なかった。







つづく

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