観月×巴 (1-1)




「高校生になるまで、待っていますよ。」


観月はじめが中学卒業と同時に付き合い始めた他校生の赤月 巴にそう言ったのは、

16歳の観月の誕生日だった。

寮の部屋で、初めてキスをして抱きしめた彼女は恥ずかしそうにしながらも、

背中に手を回して抱きしめ返してくれた。

柔らかくて暖かい

身体を自分だけのものにしたいと思った。

その気持ちを抑えて、言ったのだ。


「君が高校生になるまで、そういうことはしません。約束です。」


巴はきょとんと不思議そうな顔をした。

あどけない顔が、まだまだ子ども。

かわいくて仕方がないがだからこそ、大切にしたい。


「いいですね?」


「どうしてですか?あたしじゃ・・・その、そういう気にはなりませんか?」


恥ずかしそうに、だが切羽詰ったように言う巴に、観月はくらくらしたが

勤めて紳士的に微笑んだ。


「そういうわけじゃありませんよ。君以外抱きたいとは思いません。」


「じゃ、どうして・・・」
 



次の言葉をふさぐようにキスをした。

2度目のキスはさっきのキスより深く。


「君が大事だからですよ。せめて、中学くらいは卒業してからにしてほしいんです。これは僕の我がままですよ。」

巴はまだ納得していないのか、複雑そうな表情をしている。


「まだ納得できませんか?」


「納得っていうか・・・観月さん、それでいいんですか?」


「ええ。もちろんです。」

無論、出来るなら今すぐ巴を自分のものにしたい。

しかし、今まで溜めに溜めた自分の中のモラルがそれを邪魔する。

ただのテニス馬鹿なら、間違いなく自分の感情に流されているだろうに。

巴は、考えながら上目遣いに観月を見た。

観月を一撃で撃沈するアングルだ。


「だって、あたしが中学卒業する頃には、観月さん高校3年ですよ?
 
  それまで・・・その・・・経験がないっていうのは、その、男社会で大丈夫なのかなって。」


「君はそういうよけいな事を考えなくてもいいんですっ。」


ベストアングルで流れてくるのは余計なお世話。

観月は、確かに童貞だった。




それから1年半。

巴とは極めて清い付き合いを続けていた。

そう言う雰囲気になるのは一度や二度ではなかったが、それでもなんとか持ちこたえた。

主に観月が。

しかし、時には巴も物足りなさそうな顔をすることもあり、いよいよこの誓いも破られるかという矢先。


「観月さん観月さんっ!!」


「うわ、どっから来てるんですっ!?ココ3階ですよっ!!」


巴は観月の寮の部屋の窓から顔を見せていた。


「そこの木から登ってきたんです。それよりそれより!!」


「なんです。何かあったんですか?」


巴を部屋に上げてそう尋ねると、巴は大きな瞳をきらきらさせながら言った。


「受かったんですよ!ルドルフの高等部!テニスのミクスドで全国大会に行ったのが認められて、

 特待生枠に入ったんです!!今日合格発表だったんですよ!」


「本当ですか?おめでとうございます!」




素直に驚き、喜んでから眉を潜める観月。


「どうかしました?」


「君、いつ特待生枠の願書なんか出したんです?僕は知りませんよ。」


「あ。えーと、驚かせようと思って。受かると思ってなかったですし。」


「なんですか。せっかく今まで勉強を教えてあげていたのに、結局はテニスですか。」


「でも、テニスも観月さんが教えてくれているから、結局は同じですよね?」


悪びれもなく無邪気に言われて、観月はそれ以上嫌味を言う気をなくした。


「本当にしょうがないですね。まぁ、おめでたいことですし、良しとしましょう。

 ―――よく頑張りましたね。おめでとうございます。」


「・・・ありがとうございます!観月さんに褒めてもらうのが、一番嬉しいです!」


心からの笑顔に、観月も満足する。




「・・・来年から、同じ学校ですね。一年間しか一緒に居られませんけど。」


「そうですね。・・・楽しみです。」


言って巴の額に唇を落とす。

視線が合うと、巴は恥ずかしそうにうつむいた。

かわいいな、と思いながらその様子を見つめていると、巴はいつもと違う細い声で呟いた。


「あの・・・来年から、あたし高校生です。」


「そうですね。」


「・・・ちょっと・・・早いかもしれないですけど、でも、約束、もういいんじゃないですか・・・?」


どきりとした。それは―――



つづく



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