観月×巴 そのA (2-2)



「うーん。肩幅は・・・観月さんと同じくらい?

 腕の長さは不二さんのほうが近いのかな?

 ねえ、木更津さんって、身長何センチでしたっけ?

 観月さんより3センチ高いくらい?」


「・・・そうだね。それくらい。」


「やっぱり。ね、木更津さん。服何号の着てます?」


「・・・セーターでも編むの?」


巴はぽっと顔を赤く染めて俯いた。

抱きつかれたままでその様子は、木更津の目には非常に可愛く映った。


「観月さんに・・・。その、クリスマスプレゼントで・・・。」


「ああ。そう。」


予想された答えとはいえ、木更津はいささか落胆した。

一瞬でも夢を見るのが男としての性だ。

木更津も例外ではない。


「それで?部員全員に抱きついて色々サイズをつぎはぎしてるわけ?」


ちょっとした嫌味のつもりで言ったのだが、巴は大きな目を輝かせながら言った。


「はい!今のところ、赤澤さんと不二さんと野村さんのサイズを調べました!

 でも一番近いのはやっぱり木更津さんですね。」




「・・・皆に抱きついたの?」


「?はい。」

何か問題が?といった目で見つめてくる巴。

大有りだよ。と答えたい木更津。

何より木更津が突っ込みたいのは、抱きついただけで観月とのサイズの近似が分かる事だ。

つまり、それは抱きつき慣れてるとか抱きしめられ慣れているとか、

どちらかはわからないがそういうことだ。

木更津はそのどれにも触れず、そっと心の中に閉まっておき、代わりに別のことを言った。


「観月には見られないようにしなよ。」


「はい!クリスマスまでの秘密にしたいんです!木更津さんも、言っちゃだめですよ?」


そういうことが言いたいんじゃなくて。

あの何気に独占大魔王・嫉妬の大神 観月はじめにこのようなことがばれたら、

自分も巴もどうなるかわかったものではない。

ばれた時のことを考えて、巴に抱きしめられながら青くなった。

よもや、既に見られた後とは思うまい。


「ほんとにばれないでね?」


木更津は無意味に念を押した。




巴のセーターが出来上がったのは、クリスマスの3日前だった。

急いで作ったのだが、手先が器用なこともあってかなかなかの仕上がりとなった。

観月が好きな白色の毛糸であんだセーター。

出来た時は深夜で、一人部屋で小躍りしたりした。

どういう風に渡そう。

観月さん喜んでくれるかな。

そう思ってふと考えた。

そういえばまだクリスマスの予定を聞いていなかったのではないか。

巴は慌てた。

プレゼントに気をとられて、肝心の約束を取り付けていなかったのだ。

毎年一緒に過ごすので、つい失念してしまっていた。

まだ、3日ある・・・!それまでに観月に「クリスマス、空いていますか?」と聞けばいいのだ。

簡単な話。

明日の部活の帰りにでも聞けばいいのだ。

なにも言っては来ないが、観月だって予定は空けているはず。

そうたかをくくって、巴はセーターを抱きしめた。




「あれ?今日は観月さんは?」


いつも何故かいる観月の姿を部活中見ることがなく、巴は裕太に尋ねた。


「ああ。最近、こないな。勉強忙しいのかな。」


そういえば、最近セーターのことを気付かれたくないあまり、観月と一緒にはいなかった。

最近部活に来ていなかったなんて、気付きもしなかった。

そう思い返すと、 なんとなく巴は寂しくなってくる。

もともと普段からべたべたしていたのだ。

一緒にいないという事実を改めて知ると、途端に恋しさが襲ってきた。


観月さんに会いたいな・・・。


巴は、部活を早々と終わらせて観月のいるであろう男子寮へと向かった。

正面から女子など入れてくれるわけもないので、いつも観月の部屋の窓の近くにある木を登って行くのである。

無論、登るたびに観月に小言を言われるのだが。

今日もそうして木に登ってみたが、観月の部屋はカーテンが掛かっており、鍵も閉められたままだった。

ということは、まだ寮に帰っていないということだろう。

木から降りて、携帯に電話をしてみる。

しばらくして、留守番電話サービスに切り替わった。

しかたがなく、今日は巴は帰ることにした。

明日。

明日こそ会おうと心に決めて。







次の日も、観月は部活にはやって来ずに、寮の部屋もカーテンがかかったままだった。

明日はクリスマス・イブで、二人で過ごしたい日なのだ。

なのに、観月には会えないし、約束さえも出来ていない。

セーターは出来上がっても、着てくれるはずの大切な人が傍にいない。

巴は放課後、学校の校舎で観月を探して彷徨っている間にそう考えて、泣きそうになった。


「観月さん・・・。」


「あら、巴。」


後ろから声をかけたのは、同じテニス部の早川 楓だった。


「楓ちゃん・・・。」


「あんた、こんなところで何やってるの?なにか落し物でもした?どん臭いわねぇ。」


「か・・・楓ちゃぁん・・・っ!」


巴は早川に飛びついて泣き出した。焦る早川。


「な、何!?ちょっと、どうしたってのよ!?」


「み・・・観月さん知らない?」


あうあうと泣きながら言う巴にとまどう早川。

ハンカチを取り出して巴の涙をぬぐってやる。




「観月さん?観月さんなら、さっき図書室からでるところをみたわよ。
 
 多分、もう 寮に帰るんじゃないかしら?ほら、泣くの止めなさいよ。みっともない。」


「ほ、ほんと!?ありがとう!!」


ぱっと表情を変えたかと思うと、近くの窓の桟に足をかけて身を乗り出す。

そこから飛び降りる巴。

それを見て顔面蒼白になる早川。


「ばかっ!!ここ3階・・・!!」


慌てて窓から下を眺めると、直ぐ下には自転車置き場があり、

自転車置き場の雨避けのとたん屋根をべこべこいわせながら走り抜ける傷一つない巴の姿を見つけた。

野生児とかどうとかのレベルをそろそろ超えたと早川は思った。







観月は、帰ってきて寮の自室の電気をつけて、ぐったりした様子でべッドに座った。

最近、ストレスが溜まりやすい。

勉強ごときでへばるのも格好が悪いと思いながら、観月はそれだけが原因ではないことを知っていた。

巴がいない。

傍に巴がいないというだけで、これほど寂しいものだとは思わなかった。

たかが2週間一緒にいないだけ。

たかが、一度くらいの浮気で。

こんなにもイライラして、神経が尖って、寂しくて哀しいなんて。

あまつさえ、意図的に巴を避けている始末。

格好悪いわ情けないわ寂しいわで、観月はここ数日、すっかり参っていた。

結局、クリスマスには2人で過ごせそうもないな。

今年は、受験があるから大した事はできないと最初からわかってはいた。

しかし、この部屋で、巴が焼いたブッシュ・ド・ノエルを食べたり、プレゼントを交換したり、

一日を2人で過ごせれば十分だと思っていたのに。

二人でいつもの様に抱きしめあって、 キスをして、暖かい一夜を過ごせたら、それで。

それさえも、今年は叶いそうもない。なんとか、年を明けるまでには仲直りをしたい。

そして、センター受験が終わったらクリスマスの分も何か2人で楽しい事をしよう。

そうだ、それがいい。

今のままの気持ちではいけない。

木更津とのことは、もう今後は、そんな関係にならないように言い含めて。




でも、もし巴が自分より木更津を選んだら?

クリスマスを木更津と一緒に過ごしたら?

とてもそんなことには耐えられそうもなかった。

巴が、自分以外の男と一緒にいるなど、考えたくもない。

観月は大きな溜息を吐いた。

その時。


 こんこん。


まだ開けられていないカーテンの向こう側から、なにか叩くような音がした。

なじんだ音。

観月はまさかと思って、カーテンを開けた。

巴がいた。

慌てて窓を開ける観月。


「巴くん・・・!?」


「観月さんっ・・・!!」


窓が開くなり、巴は観月の首に飛びついた。

よろける観月。

なんとかふんばって支えた。


「巴くん・・・?どうしたんです?」


「ど、どうしたもこうしたもないですよ!!

 いつもどこにいたんですか!!

 探してたんですよ!!ずっと!!」


泣きながら言う巴に、面食らう観月。


「探していた?何か用ですか?」


「・・・あたし、何か悪い事しましたか?なんで部活に顔出してくれないんですか?

 一緒に帰れないっていったのはあたしですけど、一緒にいたくないって、いったんじゃないですからね!」


「巴くん・・・。」


「会えなくて、寂しかったんですから!声が聞けなくて、辛かったんですから・・・!

 勝手にどっか行かないで下さい!!」


自分の胸で泣きじゃくる巴が、たまらなく愛しかった。

今自分も、同じ事を考えていたのだから。

思わず巴を抱きしめる。

半月ぶりの巴の感触。




「・・・すみません。少し、ショックなことがあって・・・。独りになりたかったんです。」


「・・・ショックな事?」


「・・・心当たりはありませんか?」


遠まわしに、白状するよう揺さぶってみるが、巴は涙の溜まった大きな瞳をきょとんとさせるだけだった。

観月は溜息を吐いた。


「・・・この前、木更津くんと抱き合っていたでしょう。・・・どういうつもりなんです?」


巴は、一瞬動きを止めて、次にああ!!と大きな声をだした。


「あ、あの。あれは・・・!

 別に抱き合ってるとかじゃなくて、あたしは抱きついてるって自覚も今になるまでなくって・・・!

 て、それがショックなことですか?」


「あたりまえです。彼女が浮気をしていたら誰だってショックですよ。」


巴はそう言った観月を見て、涙をひっこめて極上の笑みを見せた。


「・・・妬いてたんですか?観月さん。」


「・・・そんなんじゃありませんよ。ただ、どういうつもりか、きみの意図が知りたかっただけです。」


観月の台詞を幸せそうに聞きながら、巴は観月の胸に顔を埋めた。


「・・・あれは、訳があったんです。明日になったら話しますから。だから、心配しないでください。」


「・・・明日になったら、教えてくれるんですね?」


「はい!」


「そうですか・・・。」


観月は、なんだかほっとして巴の髪に顔を埋めた。







back / next