赤也×巴
その軽い反応に、巴はまたしても驚き、二人の間に時差のようなものを感じた。
切原がなにを考えているのかまるで理解できない。
息を整えようと胸を激しく上下させる巴を見やり「大げさだな」と呟くと、
切原は赤く色づいた白い頬にちゅっと音をたててキスした。
「俺が、怖い?」
至近距離で尋ねられて、巴は恐る恐る首を横に振った。
「怖く…は、ないです。ただ…どうしてか。何を、思っているのか… 分からないから…」
たどたどしく、息を乱れさせながら答える巴に、切原は「はっ」と笑い、皮肉げな笑みを浮かべた。
「俺たちフィーリングは合うけど、考え方はまるっきりズレてるよな」
言いながら、首筋にキスを落とす。
「ア…やめ…なんで…」
びくっと肩を震わせる。
気持ちいい、と感じてしまうのがなぜか後ろめたかった。
抵抗しようと試みるものの、今だ両手は切原の束縛から逃れられないままである。
下半身もまた切原の膝でがっちり押さえ込まれ、逃れられるはずもなかった。
それに先ほどの余韻と、切原の口付けによって乱れた息が、巴を妙な気分へ追い込んでいた。
「マジで分かんない?なんで俺がこうするかさぁ」
「あっ…」
切原の唇は首筋から徐々に上へ上がってきて、耳に辿り着く。
「ぴちゃ」という卑猥な音が、ダイレクトに響いてきた。
ぞくり、と全身があわ立つ。
「ひぁっ!」
変な声、と口にしてから巴は思った。
鼻にかかっている幼子のような声だ。
耳を舐められたことよりも、変な声を切原に聞かれたことの方が恥ずかしかった。
「イイ声」
しかしそんな巴とはまったく逆の感想が耳元で聞こえた。
それで、さきほどの切原の言葉が思い出された。
『俺たちフィーリングは合うけど、考え方はまるっきりズレてるよな』
その通りかもしれないと思った。
けれどそれは、今切原がしている行為への理由にはならないように思う。
だがその考えは中断を余儀なくされた。
「あっ…切原さんっ?」
「ん?」
「なんで…あたしの服、脱がせてるんですか」
「なんでって、そりゃ脱がしたいからに決まってんだろ」
「な、なな何を…!!」
「いただきます、ってな」
楽しそうな切原を、蒼白になって思わず見つめる巴。
「お前が分かんないなら、もう我慢しねーわ、俺。つーか、出来ねえ。
……据え膳食わぬは男の恥、だっけ?こういうのって」
「ちょっと…いえ、全然違うと思うんですけど!」
巴の抗議など何処吹く風の切原は、どんどん行為を進めていった。
ジャージ姿の巴は、脱がすのにそう苦労はなかった。
もちろん巴の抵抗はあったが、ものともせずに上半身を下着だけにすることに成功した。
「あんまり意地張んなくてもいいじゃん。お前、さっき俺に抱かれたんだろ?
おんなじことをもっかいすりゃいいんだよ」
妖しげな炎の揺らめきを思わせる切原の瞳に、巴は息を呑んだ。
彼は、普段ジョークと本音を織り交ぜながら会話することが多いが、
それらは全て巴を傷つけるようなものではなかった。
しかし今の瞳の色は、それを保証できるようなものではない。
それでも巴には、切原を怖いとは思えなかった。
最初は緩く肩を撫でていた切原の手は、脇の下をかすって背中へと移動した。
つーっと背筋をなぞられて、巴はまたしても声を押さえきれない。
「ひゃんっ」
流されてしまいそうになる自分を必死に呼び戻して、巴は言った。
「あ、…あのっ、切原…さん」
またしても息が乱れてくる。
それは、さきほどから切原が耳への愛撫を続けている為だった。
ぷちゅ…
「ん?」
行為に没頭しながら耳元で聞こえる声は、巴には堪らなく色っぽく伝わってきた。
「さ、さっき…夢で見た…ことなんですけどっ」
「うん。俺に抱かれたってヤツな」
「そ、そーなんですけど、違うんです、あれはっ!」
「何が?」
切原の声が冷たく尖った。
無駄と知りつつも抵抗するのに必死な巴はそれに気づかない。
切原の手がとうとうブラジャーの中に到達した。
「あんっ…やあっ…!」
巴の目じりに涙が浮かぶ。
切原がそれをすかさず舐めとった。
「何が違う?言ってみろよ」
いいながら、切原の右手は巴の成長途中の乳房を緩急をつけて揉みしだき始めた。
たまらず巴は声を上げる。
「ああっやめ…ふぁ…んっ…」
言いたかった言葉が、頭の中からどこかへ飛んでいった。
巴は切原の与える刺激に溺れかけていた。
「ほら、違うんだろ?何が?ここを、もうちっと強くされたとか?」
途端、強い力で胸を掴まれる。
「ああん!!」
巴の瞳から、知らず涙が溢れた。
「それとも…こんな風に、いじられた?」
「え?…ひぃっ」
頭を持ち上げて確かめようとしたら、びりっとした何かが体の中を駆け巡って邪魔をした。
それは、乳房を揉まれるよりももっと直接的な刺激だった。
「こうやって、挟まれて、撫でられたか?」
ぷっくりと立ち上がった先端を摘まれ、人差し指の腹でさすられる。
電気が流れたかのような衝撃が走った。
「ひぁああ!いや、やぁっ……」
「いや?何が?夢の中とは違ったか?んじゃ…」
言いつつ、切原は一気にブラジャーをたくし上げて胸へと顔を寄せる。
「こっちだったか?」
「ふあぁ!?なに…コレっ…あ、や…きりは…」
先端をちゅっと吸われた瞬間、さきほどとは比べ物にならないほどの電撃が巴の体を襲った。
ビリビリと、痕を残しそうなほどに、それは刺激が強すぎた。
「ふぁあ、いや…もうっあっん…」
「嫌じゃねーだろ。なあ…俺たち、考え方も合わせない?そろそろ」
「え?」
相変わらず、その瞳は何を思っているのか巴にはさっぱり分からなかったが、
切原がどうしたいのかを言ってきていることだけは、朦朧とした意識の中分かっていた。
「俺はお前が欲しい。そんで、お前は俺に抱かれたい。 持ちつ持たれつだ、世の中。なぁ、いい加減そうしようぜ?」
「なに…?」
「なぁ、巴。俺を、赤也って…そう呼べよ」
切原の表情は、それまで能面のように温度を感じさせないものだった。
それなのに、なあ、と、巴に呼びかけたそのときは、確かに巴にも理解できる、まるで
(泣きそうな時の…切原さん…?)
そう思われてならなかった。
いつの間に、きつく一まとめにされていた両腕が解放されている。
涙で霞む視界には、悔しそうな、それでいて狂気をはらんでいるような切原が映っている。
巴には、彼の問いかけにどう答えることが正しいのか、そんなことは分からなかった。
けれど、巴は、答えたいと思った。
フィーリングが合う、と日頃から切原は言っていたが、それは巴にとっても同じだったのだ。
(この人がどうしたいのかなんて、何を思っているのかなんて、正しくは分からない。
絶対に分からない気がする。……でも 感じるんだ……切原さんは、きっと…)
その時、切原がふっと身を放して、ベッドから降りた。
えっ、と口に出した巴は、それで完全に答える機会を逸してしまった。
「あーやめだやめだ。もうオシマイ。ちょっと悪フザケがすぎたな こりゃ」
それまでの狂気じみた雰囲気はどこへやったのか、いつもどおりの切原の声がした。
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