観月×巴 そのG



ようやく、合宿の疲れを流せる時間。汗臭い男どもから、1人の時間を取れる。

観月はじめは、一番乗りで大浴場へと向かった。

 
「ようやく、汗を流せますね。」


衣類を脱衣所で脱ぎ、腰にタオルを巻いただけの状態で、観月は大浴場へと入った。

暖かい湯気を肌で感じて、そういえば今日は3月にもなるのに、寒かったなと思い返す。

その時。


「きゃあぁぁああぁ!?」


「えっ・・・!?」


女性の、声・・・!?

そう言えば、今日は女子の浴場が壊れたとかで、交代制になっていたはず・・・!

時間を厳守したつもりだったが、まだ女子が入っていたのか・・・!


「あっ・・・す、すみません!まだ入っているとは、思わなくて・・・!」


今すぐに、浴場を出たほうがいい、ということにも気がつかないほど、観月は慌てていた。

そこに、なじんだ声が声をかけてきた。


「・・・あれ?その声、観月さん?」


「―――ッ巴くん!?」


声の主。

つまり、今入浴している女子は、赤月 巴だった。

他校生ながらも、同じテニススクールで練習をしており、

観月が密かに(密かだと思っているのは本人だけだが。)想いを寄せている相手でもある。

湯気の向こうは、確かに髪を上げてはいるが、巴のノーテンキな顔があった。


「なぁんだ。観月さんだったんですかー。あたし、てっきり他の男子の人だと思っちゃいました。

 真田さんとか一番風呂好きそうだし。」


・・・なぁんだ、とくるか。このボケ娘は。

いきなり、片思いの少女に「男として扱ってません」発言をされ、少々心が痛む観月。

気にしまい。いつものことだ。


「・・・と、とりあえず、失礼なことをして、すみません。今出ますから・・・。」


「え?何でですか?」


きょとんとこちらを見つめてくる巴。


「何でって・・・。いくらきみでも、まさか一緒に入ろう、なんて言うつもりじゃ・・・」


「いいじゃないですか。一緒に入りませんか?気持ち良いですよ。」


ご機嫌な調子で言われてしまった。

キモチイイデスヨ。

あらぬ想像をしてしまう観月に、罪はあるまい。

罪があるとすれば―――巴に乗せられて、やむなく一緒に風呂に入ってしまった、巴への甘さだろう。


「えへへ。観月さんと一緒にお風呂に入れるなんて、思ってませんでした!」


「・・・僕もですよ。」


まさか、片思い中に一緒に風呂に入ることになるとは。

もしかしたら、水着を着ていての発言かとも思ったが、野生児がそんな頭の回ることをするわけもなく。

バスタオルで前を隠しているだけの状態だった。

せめて、巻け。

身体に巻いてくれ。

観月は何度も心の中で叫んだ。

声に出さなかったのは―――観月も中3男子だった、というだけの話だ。

観月の内心と下半身の事情も知らないで、巴は観月に無邪気に微笑みかけてくる。

濡れた黒髪が白い肌に張り付いて、艶かしい―――なんてことを思っているなんて、

露ほども思っていない、笑顔だ。


「あたしね、この選抜で合宿があるって聞いたとき、とっても嬉しかったんですよ。

  だって、また観月さんたちと一日中一緒にいられるんだって思ったら、すごく嬉しくて!

  温泉合宿より長い期間だし、楽しみにしてたんです。」


「そう、ですか・・・。僕も、きみと過ごせると思って、楽しみにしていましたよ。

  きみという才能を、鍛えるチャンスだと思いました。」


「はい!ビシビシお願いしますね!」


巴の笑顔が、今ばかりは落ち着かない。

今言った言葉だって、本心のはずなのに、この状況で言っていることで、

やましい気持ちを隠すための嘘のような気がする。

落ち着かない。

正直、今すぐに逃げ出してしまいたいと、観月は思った。

そんな気持ちを見透かすように、巴がじっとこちらを見つめているのに、気がついた。


「な、何ですか・・・?そんなに、じっと見つめて・・・。」


「えっと・・・。観月さんって、色、白いなーって思って。」


少し頬を赤らめて、巴がそう言う。

それだけで、心臓がタップダンスを踊った。


「あ・・・。これは・・・僕は日に焼けると、赤くなってしまうので・・・日焼け止めをしっかりしているくらいですよ。

  僕より、きみのほうが―――」


言いかけて、まずい、と思った。


 『きみのほうが、色が白くて、綺麗な肌をしていますよ。』


そう言いかけて、見てしまった。

彼女の身体を。

見れば、どんなことになるかわからないと思って、なるべく見ないようにしていたのに。

普段は陽に晒されない、白い肩。

髪を上げていて、露わになっているうなじ。

首筋から、なだらかな曲線を描く、胸

―――腕とタオルで隠されているとは言っても、その大きさや形は、容易に想像できた。

さらに、湯につかって、暖かくなったのか、頬が赤い状態で、こちらを見つめてくる。


「?どうかしたんですか?」


「―――っ・・・!!なっ・・・なんでもっ・・・!!」


心臓が、もたない。

口から心臓が飛び出そうだった。

彼女は、少しもこちらを意識してはいないというのに―――


「そうですか?・・・でも、観月さんって、意外にしっかりしてますよね、身体。」


そう言って、巴は白い指を観月の腕に滑らせた。


「そりゃ、他のパワー自慢の人たちと比べたら、全然細いですけど、

 でも、やっぱり運動してる男の人なんだなーって感じがしますよ。たくましいっていうか。」


「―――っ・・・!」


腕を撫でられて、胸に手を置かれた。

お互い、裸で。 

僕は、巴くんが好きで。

巴くんは、どうかわからないけれど、でも。嫌いな男にこんなことをするような子じゃ、ない。









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