リョ桜




―きっかけは些細なものだった。

ただあいつが、他の奴に対して満面の笑みをしていただけの。




けれど俺は真っ赤になった控え目な笑顔しか見たことがないと気付いた。

他の奴にはあんな笑顔をするのに、俺にはないと……。

言いようのない気持ちとともに、ある疑問がいつしか浮かぶようになった。

竜崎は、本当に俺のことが好きなのか?

竜崎はあまり自分から動く方じゃない。

それは俺も当て嵌まるけど、

キスを求めるのも

行為を求めるのも

皆俺からで、竜崎自身には告白の時しか言葉を貰っていない。

言葉でいったら俺も言わないけど、あまりにも竜崎は恋人として求めないから、少し敏感になっていた。


―いや、きっと不安なんだ。俺が。


(カッコ悪……)


南次郎が知っていたら間違いなくからかうであろう心境。

まさか自分がこんなに振り回されるとは思わなかった。

女々しい自分に嫌気がさす。


「あ、いたいた。おーい越前〜!!!」


「桃先輩…」


廊下の向こうから桃城が手を振って走ってくる。

くせ者として知られる彼も、三年が引退した今、立派な部長をつとめている。


「いやぁ、ちょうどよかった」


「どうしたんスか?」


「それがな、前に降った雪がなかなか溶けない上に、この後また雪が降りそうだからって、

 今後三日間は部活休みになったんだよ。残念ながら体育館とれなかったしな〜」


「え。三日間もっスか?部室はどうするんすか」


「まぁ期間中は施錠だな」


「…俺、色々なもの置きっぱなんすけど」


思わず怪訝そうに返すリョーマ。部室には日常使うものまで置きっぱなしにしてある。


「なっ!…しかたねぇなー。鍵貸すから、明日ちゃんと返せよ越前。ほら」


そう言うと、桃城は部室の鍵をリョーマに渡した。


「いいんスか?」


「…ただし無くすなよ!!」


そんなにホイホイ渡していいのか疑問だが、基本はおおざっぱな桃城の事。

リョーマはまぁいいかと思う事にした。


「おっと次の授業が始まるな。じゃあな越前」


「ちぃ〜っす」


またお腹が空いているのか、桃城はポケットからパンを出し頬張り始める。

よく食べるなと思いながらリョーマは遠目で去っていく桃城を見送った。


(部活休み…か)


最近雪がよく降るため中々テニスが出来ない。正直、だんだん不機嫌になってくる。

思わず溜め息をつくと、リョーマはふと、窓の外に桜乃がいる事に気付いた。

隣には男子が一人いる。


(誰だよ…)


非常に視力が優れているリョーマは、男子をじっと見た。

誰かは分からないが、二人とも世界地図等を持っていることから日直らしい。

仲がいいのか、桜乃も珍しく男の子と楽しそうに話している。


(何かムカつくんだけど)


お互いに盛り上がっているのか、桜乃は明るい満面の笑みを浮かべている。

―リョーマにあまり見せないような。


(俺の前では、赤くなって俯いてばかりのくせに)


沸々とした苛立ちを隠せない。

そいつの事の方が好きなんじゃないかと考えてしまう。

リョーマだからこそ、赤く俯いてしまうことも






今のリョーマには考える余裕が無かった。

そして思うのは、あの言葉。


『竜崎は本当に俺の事が好きなのか?』


抑えられない苛立ち、胸の苦しさ。

何でこんな事を気にしてるんだと心の中で叫んでも、身体は張り付いたようにまったく動かなかった。

するとその時、男の手が突然動いた。

ゆっくりと桜乃の髪に触れ、ゴミを取り払う。

気付いた桜乃は慌てて笑顔でお礼を言っている。



―あの笑顔で。



そして男の子は桜乃の肩をポンポンと軽く叩いたのだ。




―その時、




リョーマの中で何かがキレる音がした。







いつも帰る時、待ち合わせている校門。

何も言わなくとも、二人で帰ることは暗黙の了解になっていた。

そんなそぶりは見せなかったけど

そこで竜崎が俺を待っている姿が好きだった。

―でも、今日は違った。

「―あ、リョーマくん」


門にもたれ掛かって、手に息を吹き掛けていた桜乃がリョーマに気付くと、頬を染めて手を振った。

でもリョーマは何も答えずその手を取り、ひっぱった。


「…え?リョ、リョーマ君?」


「―ついてきて」


眉を下げ、困った様子の桜乃に一言言うと、リョーマはそのまま桜乃を引っ張っていく。






行き着いた先は、男子テニス部部室。

リョーマは桃城から借りた鍵で部室を空けると、状況が飲み込めていない桜乃を乱暴に室内に入れた。


「リョー…マくん?」


ガチャリと中から鍵を閉めると、リョーマは今だ無言で桜乃に近づいてくる。


「私、男テニの部室にいたらいけな……ふぐっ…!?」


突然桜乃を壁に押し付け、リョーマは舌を入れて桜乃の口をむさぼった。

桜乃の両手をリョーマの手で拘束し、抗うことも出来ない。


「っ…んぅ…んんっ…はぁ……っ」


突然の事で無意識に抗おうとするが、桜乃はリョーマのされるがまま。

今まで体験したことのない程の激しいキスに、思わずリョーマの学ランを掴んだ。


ピチャ…クチャッ…


舌が絡まるたびにする水音が、耳から桜乃を侵す。


「…っはぁ…リョー……くっ…んんぅっ!!!」


二人の唾液が絡み合い、顎から落ちる。

激しいキスに次第に反応を示し、桜乃の身体はビクビクッと痙攣した。


「ぁ……ふぁっ…!!」


漸くリョーマの唇から解放されると、二人の唇から糸がひいた。

リョーマは静かに唾液を指で拭うと、魅惑的な笑みをした。



「今日は、帰してやんない」


―そう、とても妖艶な美しい笑みで。








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