千石×巴
赤月巴が千石清純と付き合い始めて、約一ヶ月になる。
ある休みの日、巴は千石との約束の為、待ち合わせ場所である青春台駅前のベンチに腰掛けていた。
今日の予定は、一緒に昼食を食べた後、千石の家でDVDを観る事になっている。
ちなみに、彼の家に遊びに行くのは今日が初めてだ。
髪には千石に貰ったバレッタ、首にはネックレスが揺れる。
今日のルックスは完璧だ。
しかし、巴の目の下にはクマが出来ていた。
おまけに、大きな欠伸まで出てきて、何度も噛み殺している。
その理由は、昨夜見た夢にあった。
その夢は以前にも見た事があった。
確かJr.選抜合宿中のことだ。
山吹中のメンバーが、西遊記のキャラクターになっている夢。
そして、何故かその中には自分も居た。
役柄は、三蔵法師。
物語の通り、一行は天竺へ向けての旅をしていた。
だが、普通の物語とは微妙に異なっていた。
三蔵法師である巴は、八戒である千石と惹かれあっていたのだ。
そしてある日、傷を負った千石の手当てをしていた巴は、彼に押し倒されてしまう――。
しかし、その時は邪魔が入って特に何も無かった。
ただ、目覚めはとても気恥ずかしいものだったが…。
そんな夢を、昨夜また見てしまったのだ。
どうやら、その夢は前回の夢の続きのようだった。
場所は、どうやら町の宿屋のようだった。
まだ天竺へ到着してはいないらしい。
ベットで休む巴に、夜這いをかける千石。
巴を見下ろす千石と、千石を見上げる巴。
熱っぽい視線で問いかける、彼。
頷いて、静かに瞳を閉じる、彼女――。
「うひゃぁぁぁぁぁ〜〜〜〜!!!!」
そこまで思い出して、巴の頬が熱くなった。
恥ずかしさがこみ上げてきて、両手で顔を覆ってしまう。
流石に、押し倒された意味を知らない程、巴も子供ではなかった。
いや、少し前までは知らなかったのだが…
千石と付き合い始めてから、友達思い(?)の朋香にレクチャーされて、
男女間で行われる行為について知ってしまったのだ。
勿論、千石のことは好きだ。
その…そういった事になっても良いと思っている。
でも…改めて考えると、やっぱり恥ずかしいのだ。
「…ふぅ」
巴は覆っていた両手を離して、しばらく深呼吸を繰り返した。
段々と頭が冴えてきて、周りの景色が見えてくる――。
…その時、巴の目にある光景が見えた。
巴を訝しげに見つめる通行人と――。
「…メンゴ。待たせちゃったかな?」
さわやかに笑顔で謝りつつも、口元が引きつっている、彼氏。
(…ドラえもんに、タイムマシンを借りたい)
千石と合流してから、巴は同じ事を考え続けていた。
いや、時を戻してくれるなら誰でも良いのだが、一番初めに浮かんだのがドラえもんだったのだ。
とにかく千石を待っている間の巴の暴走を止められれば良いのだ。
しかし、昨夜の夢を思い出したせいで暴走したのだから、昨夜まで戻した方が良いのだろうか?
「う〜ん」
「どうかした?」
思わず唸る巴に、すぐ隣にいる彼氏が問いかけてきた。
「い・いえ、何でもないですよ」
速攻で作り笑いを浮かべる巴。
「本当に?やっぱり、どこか具合でも悪いんじゃ…」
千石が心配そうな表情で、絡めた指先に軽く力を込める。
「だ・大丈夫ですよぉ!ほら、元気!元気!」
そう言いつつ、巴は空いている手でガッツポーズをしてみせた。
二人は、先程からそんな会話を繰り返していた。
今は食事も終わり、千石の家へ向かっている最中だ。
二人肩を並べて、並木道を歩いている。
「う〜ん。オレの家までもう少しだから、着いたら少し休もうよ。ね?」
「…はい。すみません」
流石に何度も千石に心配顔をされると、巴も折れるしかなくなった。
繋がっているに指先に軽く力を込めると、彼は優しい笑みを浮かべ、そっと握り返してくれた。
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